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──────やらかした。
美味しいというものではなかったのかも。
もっと別の、味、だったのかも……
｢あ、あぁ、そう言われてみれば少し……」
「少し？どんな味や？」
「え、と……に、苦いかな、って………」
焦りながら、該当しそうな味覚をあげても、グルさんの顔は曇ったままだった。
どうやら、味覚のチョイスを完全に間違えてしまったらしい。
「えと、その……」
「そのワインには、砂糖が飽和するまで溶かしてある」
体が凍りつく。
血が巡っていないかのように，指先がじわじわと氷に侵食されていく。
先程，軽率に「苦い」と言ってしまった弊害を強く感じた。
味音痴、では到底済ませられそうにない。
だけど，わざわざグルさんはこんなことを…？
自分がケーキと自覚したうえで、フォークである私を社会的に放逐しようとしているのか。
「前々から思っとったが、もしかしてお前、味覚無いんか」
「───無いですよ｣
目の奥を覗き込むようなグルさんの視線で確信した。
完全にバレた。
もう、ここまで来たら隠しても無駄らしい。
｢だって私、フォークですから」
グルさんは変わらず、こちらを見つめたままだ。
「……やっぱり。そうやったんか」
「はい。さらに付け加えるなら、グルさんは、特別美味しそうな香りがするケーキです。自覚してました？」
半ば最低な自暴自棄。
ケーキにとって、フォークの存在は脅威でしかない。
こうして脅しておくことで、万が一にもグルさんが今後私に近付くことを防ぐことが出来るかもしれなかった。
信頼たる、大好きな上司に、今後私は近寄る権利を放棄したのだ。
目の周囲は少しずつ粗っぽい熱を帯び始めて，今にも溢れんとしていた。
「人を……ケーキを、食べたことあるんか」
「……あるわけないじゃないですか」
………私を殺人鬼と疑っているのだろうか，怯えているのだろうか。
返答次第で、警察に突き出されるのだろうか。
フォークは皆が皆、人を殺して食べている訳では無いのだ。
実際、私も自分の境遇を受け入れられず増幅した憎さを捨てられずに、フォークである性に抗い続けてきた。
人を殺めたことはないし、当然食したこともない。
我慢することに苦痛を感じはするものの、自分を予備殺人者である"フォーク"と認めたくなかったのだ。
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作者名：AKIRA | 作成日時：2019年1月29日 1時
