分断するJYP 8 ページ8
誰もいない駐車場は極寒で、ぽつんと停められた高級車を前に私たちは足を止めた。
私はそれまでジュノの車に乗ったことがなかった。
ドアを開けてもらってぎこちなく乗ると、ジュノは慣れたように私にシートベルトをつけさせた。
「車温めるから待って」
「うん」
その声にはいつもと変わらない安心感があった。
窓ガラスが少しずつ曇っていく。
ジュノは前を向いたまま姿勢を変えず言葉も発さなかった。
隣で私も息を潜めた。
「なんでウヨンといたの」
唐突に沈黙は破られる。
でも落ち着いた声だった。
「たまたまあの場で一緒になっただけ。
急に怒鳴り声が聞こえてきたから」
「うん」
「ジュノは、なんであんな口論になったの」
やっぱりここでしか聞けない。そう頭の中で考えていた。
また今度、は私たちにはない。
確かにジュノはせっかちだけれど。
本気で誰かと衝突することはしないし、怒りを人にぶつける人じゃない。
ウヨンがすぐに相手の方へ行ったけど、会社内とはいえ大事になるかもしれない。
明らかにジュノの様子がおかしかった。
「なにかあの人ともめてるの？」
「いえない」
「少しも話してくれないの？」
「心配かけてごめん。でも今は無理なんだ」
そう言ってジュノはゆっくり車を発車させた。
歩いても帰れる距離なので、宿舎の前にはすぐ着いた。
頭を上げられない。
感情が複雑に入り混じって、私は激しく混乱していた。
車から降りない私を、ジュノも急かすことはしなかった。
誰かに見られないようにしなきゃ。
我に返ってドアに手をかけ、ジュノのほうへ振り向いた。
ジュノは唇を固く閉じ、苦悶の表情で私をまっすぐに見つめていた。
その目は訴えていた。
"誰が黒なのか突き止めてやる"
"俺が守り抜くから 絶対に"
あの言葉を思い出し、疑惑は確信に変わっていった。
私のためだ。
ジュノの手はそっと私の手の上に置かれた。
私よりも冷たい手。
「A、身体大事にして」
私は手のひらを覆してジュノの手を握った。
「もう少しそばにいたい」
「俺は会社に戻らなきゃ。
もう一度落ち着いて話をしてくる」
「一緒にいく」
「そうはさせないよ」
「でも次はいつ会えるの？」
「また今度連絡するから」
そう言ってジュノは手を引いた。
やめてほしい。
私のためならやめてほしい。
それを伝えることはできなかった。
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作者名：クロワッサン | 作成日時：2020年9月12日 21時
