Drive Me Crazy 3 ページ16
「・・ちょっと待って。
他の会社って、歌うのに？」
車が右折してガタガタと砂利の上を通る。
どこかの屋外駐車場に着いたようだ。
照明もない、暗くてやたら広い場所。
その空間は余計に私を不安にさせた。
ジュノはエンジンを切り、身を乗り出して再び口を開いた。
「抵抗があるのはわかる。
Aは縁あってJYPのために韓国に来たんだから。
他の会社には関心ないだろうけど、
うちももう前みたいなアットホームな会社じゃない。
大きくなるのに組織も人も変えていってるし、
より商業的である必要が出てきた。
JYPの息がかかった会社はいくつかある。
他の大手でもうちの出身で推薦もあれば早い。
ちゃんとしたマネジメントでAが活動できる環境を探そう。
それまでは焦らず、ビザのためにも今のまま籍は置いておいて」
私をみる真剣な目。
でも、用意されてきたようなその話で気づいた。
「ジュノ、前から知ってたんだね。
・・JYPが私をデビューさせる気なかったって」
声が震えた。
「本当になんでも知ってるよね。
いつから知ってたの」
この数ヶ月、私は知らずに苦悩したのに。
憎い感情がふつふつと湧いてくる。
「違う。本当にデビューさせる計画だったんだ。
それが今年に入って急に消えた。
どうにかしようとしたけど」
「なんでジュノがどうにかしようとするの？
お願いだからもうなにもしないで」
ジュノもおかしくなってる。
そう言いかけてやめた。
「本当は分かってた。
あれが実力がだったんだから、当然なの」
「それだけは言うな。それは違う」
ジュノの声が大きくなる。
「今回のことは関係ない。会社の問題だ。
実力とか評価とか、そういう判断じゃない。
それだけはよくわかって」
身じろぎしない私にさらに前のめりになる。
「あのステージのことも忘れろ。
スランプは誰でも経験する。仕方がないんだ。
でも皆それを乗り越えてる。乗り越えられるから。
先を見失わず諦めなければ。
努力を続ければ」
"スランプ"
眠らせた記憶の数々が、火花のように脳裏にフラッシュバックされる。
母が、私たちを憎しみながら家を出たとき。
父が隠していた覚醒剤を見つけて警察を家に呼んだとき。
肌身離さなかったノートを置いて泣きながら宿舎を出たとき。
好きになった人と妻子が一緒にいる幸せな家庭を見たとき。
夢を叶えたステージで、死ぬような恐怖を抱いたとき。
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作者名：クロワッサン | 作成日時：2020年9月12日 21時
