不協和音 2 ページ45
その後もハヨンが甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
まだ茫然自失としている私にコートをかけ、車に乗り込ませ、そして自宅へと運転する。
車の窓に流れる江南の夜景を、私は空虚な目で眺めた。
もうすでに10時を過ぎている。
ジニョンさんのコンサートも終わっているだろう。
「オンニ、心配ありませんよ。コンサートは無事盛況のうちに終わったって。」
まるで私の心の中を見透かしたように、彼女は明るく励ましてくれた。
「そう。それならまだ・・。
ハヨン。何から何まで、もうどうお礼を言ったらいいか。」
「もう、オンニ。当然じゃない!」ハンドルを握りながら彼女は言った。
「私たちはルームメイトなんだもの!大切な家族なんだから。」
彼女の口から何気なく出たその言葉に、みるみる目頭が熱くなった。
たった数か月前に知り合った。
共同生活が始まることでジュノが会いに来れなくなったし、当初はどうなるかと思ったけど。
恥ずかしがり屋だけど本当はおしゃべりでアニメオタクでセンスがよくて、でも実は料理が苦手でネコアレルギーで、とても親切なこの友人が、ためらいもなく私を"家族"と言ってくれる。
必ずしも血のつながりや過去の長さじゃない。
家族って一体なんだろう。
自宅に帰って私は先ずシャワーを浴びることにした。
まるで練習の後みたいにたくさん汗をかいていたから。
ハヨンはその間に夕食の出前を頼むと言った。
シャワーヘッドから水を出す。
お湯が出るのを待つ間、鏡をみて気づいた。
頬にあざができている。倒れた際に、床に顔を打ったのだろう。
そして次の瞬間、
倒れる前の記憶がザーザー流れるシャワーの水とともに鮮明に蘇ってきた。
異変を感じて倒れるまで、アッという間だった。
疲れていたのだとしても。
わざわざステージに上がったタイミングでダウンするなんて。
会場はどんな反応をしたのだろう。
大勢の前で悲惨な歌声を披露してしまった。
初日で記者も来ていたというのに。
ネットを見るのが怖い。
スタッフ全員に混乱をきたしたはずだ。
ジニョンさんは私に失望しただろう。
今度こそ私を見限るはず。
ひとりになると、絶望に陥るのは容易だった。
そして忘れられない、あの致命的な胸の痛み。
思い出すだけで、その予兆が差し迫るように感じられた。
このときはまだ気づかなかった。
これが、私の心に魔物が棲みついたことを知らせるサインであったことに。
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なつ?(プロフ) - はじめまして!とても面白くて一気に読んでしまいました^^;続き期待しています! (2019年10月31日 19時) (レス) id: fc66c4ce63 (このIDを非表示/違反報告)
クロワッサン(プロフ) - Naishanさん» メッセージいただいていたのに、大変遅くなってすみませんでした。。この先を気になってくださり嬉しいです!本当にありがとうございます (2019年9月17日 22時) (レス) id: f77aa2c100 (このIDを非表示/違反報告)
Naishan(プロフ) - どうなっちゃうんでしょう…すごく先が気になります! (2018年12月31日 20時) (レス) id: d333c1ee1e (このIDを非表示/違反報告)
クロワッサン(プロフ) - Naishanさん» コメントありがとうございます!!読んで待って下さる方がいることを知れて、とても嬉しいです(涙)更新がんばりますね!これからもよろしくお願いします:) (2018年11月29日 17時) (レス) id: f77aa2c100 (このIDを非表示/違反報告)
Naishan(プロフ) - 早く続きが見たいです!めちゃくちゃ面白い!ドキドキします。 (2018年11月29日 17時) (レス) id: d333c1ee1e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:クロワッサン | 作成日時:2018年11月5日 17時