. ページ2
.
.
『あと、一ヶ月か…』
いつも彼を見つめていた図書室の特等席に座り、夕暮れに染ったグラウンドを眺める。
二階の端っこにある古びた図書室は、誰にも邪魔されず、西畑先輩の走るグラウンドが綺麗に見える穴場スポットなのだ。
この古びた図書室なんて誰も寄り付かないし、グラウンドのすぐ側にいる西畑先輩のファンにも邪魔されずじっと見つめることが出来る。
だから毎日図書室に来ては先輩を眺めることが日課になってしまった。しかし西畑先輩は部活を引退してしまい、図書室に通う理由は無くなってしまったのだが、2年も居ると、すっかり落ち着く場所になっていた。
______卒業式まであと一ヶ月。
私の恋も、あと一ヶ月…西畑先輩に告げることなく終わる。
なんだか感慨深くなって目頭が熱くなった、そんな時だった。
ガラッという音と共に図書室の扉が開く。タダでさえ人が来ることが珍しいのに、
現れたのは、私がずっと恋焦がれた西畑先輩だった。
「あら、また泣いとるん？」
『え、』
「Aちゃん、やったよなぁ？生徒手帳の。」
『あ、はいっ…覚えてて、くれたんですか？』
「そら、覚えとるよ…」
そう言いながら私の特等席の向かい側に座る西畑先輩。
こんなに近い距離で西畑先輩を見るのは、あの一件依頼で恥ずかしくなる。
『えっと、めずらしいですね。こんな図書室に来られるなんて。』
「確かに、やけどもうすぐ卒業するし、ちゃんと見とこうと思ってなあ。」
西畑先輩と会話をしているという事実だけで心拍数が上がる。私何かいい事したっけ、なんのご褒美だろう？なんてくだらない事を考えてしまう。
「ふふ、確かにここ、綺麗にグラウンド見えるなあ。」
『…え、』
「ずっと見ててくれたやろ、俺の事。」
『あ、えっと…すみません、気持ち悪いですよね…』
「いーや、全然。むしろグラウンドからこんな遠くのアンタ見つけてる俺の方がやばいやろ。」
ふわりと笑う西畑先輩にまた一層胸が高鳴る。
『それって、』
「なあ、Aちゃんは俺に気持ち伝えてくれへんの？」
『…わ、私。先輩の常套句、聞きたくないんです。』
「常套句？…ああ。俺、あんたにはちゃんと言葉用意しててんけどなぁ」
西畑先輩は立ち上がり、私のすぐ隣まで来てまっすぐ私を見つめてきた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 340人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：シキ | 作成日時：2023年6月22日 15時
