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JI「 Aさん、あれは？ 普通の検問所ではないですよね？ 」
彼の知る世界と、現在の世界は全くの別物で、彼の中での常識はもはや歴史とさえいえるレベルだ。
「 身分確認よ。 すっかり忘れていた。いい？表情は変えないで、世間話とかもだめ。ただ、私とあなたの身分証を見せるだけで、他は何もしてはダメ。」
仕事の用事で研究所がある経済特区から、金持ちやそれなりの地位を持つ人間しか入ることの許されない、特別区域へと車を進める。
検問所に近づき、武装した兵士が運転席のカイに窓を開けるよう指示する。
『 こんにちは、ＩＤを拝見します 』
私が言ったとおりに、カイは2人分の身分証を差し出す。
『 おや、ＳＭラボのAさんではありませんか。いつもの助手はどうしたんです？
今回は人間でもないようだ 』
兵士はカイを見下すように鼻で笑い、身分証を受け取った。
「 ... ええ、彼は先月付で退職しましたから。 それ、早くスキャンしてくださる？
官邸のメンテナンスに行かなければならないの。 」
兵士は、カイの身分証を見て顔をこわばらせた。
義弟のおかげでカイはヒューマノイドのうち最も高い身分であり、人間と同等の権利能力を有している。その、最高身分は人間における私と同等でそれなりに高く、検問所の兵士よりもおそらく上だ。それに気付いた兵士は、愛想笑いを浮かべながら、先ほどとは手のひらを返したような態度で照会の終わった身分証を返却した。
JI「 ...今のは？ よくわからないけど、あまり良い気持ちではありませんでした 」
「 あなたは知らなくていいの。それより、急いで。 遅れちゃう 」
彼が一日でも早く今の世界に慣れることができるように、と会社には自作のヒューマノイドとして申告し、不正がばれて解雇された助手に代わって1か月前から仕事を手伝わせている。もともと学習能力は高かったし、分野の知識も持っていたので呑み込みも早く、周りにAIではなく私たち人間と全く同じ思考回路を有していることはバレてはいない。まだ。
医学は専門ではなく、入門程度の知識しかもっていなかったのでこの1か月間、必死に専門書を読み漁ったり、専門家に話を聞いたりして彼の記憶を修復する方法を探した。しかし、そのすべてをもっても解決することはできないようで、「幸せだったころ」の私たちの記憶を呼び戻すことにはあきらめかけていた。
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作者名：セナ | 作成日時：2018年9月19日 22時
