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渡『まじで何で目黒の家からなの？』
目『俺別に後でいいよ』
「遠回りしろって言うんですか」
運転席に私、後部座席に渡辺さん、助手席に目黒さん。
この状況はなかなか和やかなんて言えず、私と目黒さんが長々とやり取りしていたせいで車で待ちぼうけを食らっていた渡辺さんはかなり不機嫌だ。
そこでさらに油を注ぐのもあれだけど、正直いつもと変わらない気がするしスタジオから目黒さんのお家の方が近いのは事実だった。
渡『……とりあえず着いたら起こして』
まあ、ひたすら文句や小言を言われ続けられるよりましだ。
後ろからよく知っている寝息が聞こえてきて、今日の業務はまだ終わっていないにも関わらず少し安心してしまう。
目『しょっぴーきっついね(笑)』
「慣れました」
目『慣れちゃだめでしょ』
「……一つ聞いてもいいですか」
目『ん？』
渡辺さんを起こさないようにと、助手席の彼にだけに聞こえるくらいの小さな声を振り絞った。
「何で私が悩んでるの、気づいたんですか」
少なくとも、彼以外のメンバーは全員私と渡辺さんのやり取りをじゃれあいのように見ていた。
明らかに不快な顔だって、絶対にしないように意識していた。
目『顔出てたよ』
「っ、うそ！？」
目『うん、嘘(笑)』
やっぱおもしろいね、なんて笑われても嬉しくない。
それよりも、気づかれたことの方が気になって仕方なかった。
目『俺結構勘鋭いんだけどさ、』
「……はい」
目『どこにでもアンテナ張ってる訳じゃないよ、別に』
「あの、それってどういう」
渡『ねえ』
「……っ、」
渡『もう着く？目黒の家』
……何でこのタイミングで起きるかな。
「……もう着きます」
目『あ、そこ右の方が近いかも』
「あ、わかりました」
普通、あまりにも普通。
アンテナ、とか、何の話だったんだろうか。
目『ごめんね、送ってもらって』
渡『どうせこいつ帰ってもすることないからいいよ』
「……じゃあ目黒さん、お疲れ様です」
目『あ、そうだ』
シートベルトを外して、やけに無邪気にこっちを見て笑う。
目『良い店探しとくから楽しみにしてて、Aちゃん』
「っ、は！？」
渡『え、』
目『2人ともお疲れ』
仕事場で幾度となく見たあの大きな後ろ姿を、こんなに憎らしく感じたことはない。
不意の呼び方に、こんなに心臓が煩くなったこともない。
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作者名：ざりがに
| 作成日時：2021年4月4日 1時
