女の子、雪男に有り。

ある日の黒と、 ページ5

「目黒、私今スケジュール帳書いてるんだ」
『うん、見てわかる』
「……邪魔しないで」
『や、してなくない？』
「してるの、今まさに」



私だってほんとは後輩に邪魔とか言いたくないんだよ、基本的に優しいおねえさんだからね。
でもほんとに邪魔なんです、ええ。




『ネイル綺麗だなって見てるだけじゃん』
「ボールペンを握らせてください」




いつもと変わらないテンションでそういうこと言うから、邪魔認定してる私が悪いの？ってなるよね。
でも今日の私は流されないって心に誓ってる。
おニューのスケジュール買ったんだから、爪ごときを褒められたからといってこの作業を止める訳にはいかない。




『こういうのさ、店でやってもらうの？』
「家で自分でやったけど、」
『まじ？』
「こんなしょうもない嘘つかないよ私」
『俺この色好きだわ』




……こういうのあれでしょ？REN MEGUROってやつでしょ？ファンの子が言ってた。
まあまあ確かに、可愛い可愛い後輩に手を握られて手間をかけて彩った爪を褒められたら正直言うと嬉しい。
と、思い始めたら多分負け。



「……もう、」
『あ、(笑)」
「スケジュール帳書かなきゃだめなの、邪魔しないで」



手を振り払ってしまって、やりすぎたかなと一瞬気にしたところでREN MEGUROとやらは顔色一つ変えない。
ちょっとぐらい落ち込んでくれたらもっと可愛げが出るのに、なんて思いつつボールペンを握って2月のページにする。




『何でそこあけてんの、』
「あけてる？」
『だから、スケジュール』




目黒はたまに、言葉を削って喋ることがある。
それがわざとなのか否かというのを聞くのは不毛な気がして、聞いたことなんて一度もないけど。
一応彼が何を気に留めたのかを探ろうと、まだ何も書かれていないそのページを見つめる。



「……ああ！」
『わかった？』
「バレンタインデーぐらい書かなくてもちゃんとチョコあげるから大丈夫だよ」
『ちげえよ(笑)』
「あ、」
『これで忘れないでしょ？』



16日の欄に書かれた、“おれのたんじょうび”。
……なんか、今日も負けみたい。









岩『いや、近い』
佐『岩本さん嫉妬入りまあす！』
渡『佐久間うるさい、まじでうるさい』
宮『目黒あの辺器用だからね』
阿『ほんっと得だと思う(笑)』
向『俺もあれ真似したらAちゃんにモテるかな』
ラ『めめなんかダサい』
深『俺が買ってやったのに、あのスケジュール帳』

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