純愛だよ。【夏油傑】【完結済】

蜜月 ページ5

「はぁ………」

傑の後に、続けてお風呂に入り、全身を洗って、そして湯船に浸かる。

「色気が、足りないのかな………？」

ちらりと、視線を下に落とす。胸は、無いわけじゃない。あるわけでも、ないけれど。

「う〜ん」

体を、湯船の奥へ、奥へと沈める。
彼の事を想う。ザバーと、お湯が溢れる。

吸い込まれるかのような黒瞳。じっとりとしていて、かつ男性らしさを感じさせる魅惑の声音。

果てしない夢を追いかける彼。非術師を虐殺する彼。家族にだけ見せる表裏のない素の笑顔。

全部全部、思い出せる。
全部全部、大好きだ。

彼のことを考えると、胸がきゅうと苦しくなる。
……本当は、ずっと私のそばに居て欲しい。この家に、丸ごと一生縛りつけてしまいたい。

それこそ、忌々しい私に刻まれた術式を使ってでも。

「駄目だ、私。最近本当に、独占欲強すぎる。自粛しないと、自粛」

何故か最近、胸騒ぎがする。
彼が出ていったまま、そのまま帰って来なくなってしまいそうな。そんな、類の。

「考えすぎは、良くないな。………そろそろのぼせちゃうから上がろう」

*****

「いいお湯だったかい？」

声は出さず、小さくこくりと頷く。

「まだ、拗ねてるの？」

彼は呆れた顔で、それでも笑顔を絶やさないで、私を胸の中に迎え入れてくれる。

伝わってくる筋肉質な感触。男と女の、体格差。
その全てにときめく。心臓が、ドクドクと飛び跳ねる。

「ん…………」

大きな掌で、顔を包まれる。
きっと今の私は、耳たぶまで真っ赤に染まっているに違いない。

「…好きだよ」

漏れだした言葉は、吐息は、あまりにも私が求めていたもので。

「私も……んっ」

返そうとした言葉は、強引に唇で塞がれる。
言葉など、要らないというように。

だから私は、心の中で答える。
私も、大大大好きだよ。

傑の薄くて、ふわふわの柔らかな唇が好きだ。
女の子みたい、とからかうと彼はくっと笑って激しいキスをしてくる。お約束だ。

頭を、頬を、撫ぜる手つきが愛おしい。
傑しか感じない。
______暖かな光で満ちているような時は、あっという間に過ぎてゆく。

*****

「寝ちゃったか」

すうすうと穏やかな寝息を立てるAをじっと見つめる。
その姿はあまりにも無防備で、安心しきっていて、心の底から自分の事を信頼しているのが分かった。

「離したくないな……」

消え入りそうな声でそう呟き、彼もまた目を閉じる。
その様子を、夜空に浮かぶ月だけが意味ありげな眼差しで見つめていた。

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