27 ページ28
どれくらいの時間その場で抱き合っていたか分からない。
俺の肩に顔を埋めたAはずっと泣きじゃくっていて、その声が夜空に響いた。
取り敢えずその場にずっといるのも何だったからAをグッと抱き締めたままもう少しで着きそうだったコンビニまで移動した。
コンビニの店頭に置かれたベンチにAを座らせ、その隣で落ち着くまでその手をぎゅっと握りしめる。
この状態じゃどうしようもないから、取り敢えず誰か応援を呼ぼうとスマホを出し、きっと誰よりも今信頼出来るであろう人に連絡をする。
「あ、としみつ?コンビニ着いた?」
「…虫さん…?悪い、ちょっと、Aが…」
そこまで言うと何か察したのか、今向かう、と頼もしい返答を貰った。
スマホを仕舞い、隣のAを見やると少し落ち着いたのか、すんすんと鼻を鳴らしながらも涙はもう流れていなかった。
「A…?」
そう問うと、ゆっくりとこちらに顔を向ける。
『なに?』
「落ち着いた?」
『うん、ごめんね』
「謝んな」
そこからはあまり会話がなくて、手を握りあったまま虫さんの到着を待った。
疲れたのか少しウトウトしているAの頭を引き寄せ自分の肩に乗せると小さく息をつくA。
少しだけ気になって、静かにAに尋ねた。
「………なぁ」
『…ん、なぁに』
「…俺の顔、見えてる…?」
『ん…見えてるよ』
そう言って俺の顔に手を伸ばし、鼻先にちょん、と指を乗せた。
『としみつくんの顔は、絶対忘れんよ』
そう言って俺の鼻筋を撫でるようにスっとなぞった。
その仕草に、胸が苦しくて。
なんだよ、そんな、本当にもう見えなくなるみたいな言い方すんなよ。
そう言い返したかったけど、どれだけ今のAにはこの世界が写っているのか、怖くて聞けなかった。
気が付けばAは俺の肩にもたれ掛かる様に眠っていて、すーすーと寝息を立てていた。
「忘れんで、俺の顔」
その耳元にそっと唇を寄せて囁く。
まだ、お前に見せたい景色があるんだ。
まだ、お前に見せたい物があるんだ。
願わくば。
俺とAを照らす様に車のライトが当たる。
虫さんの車が到着したようだ。
459人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夜宵(プロフ) - 最後のお話、すごく考えさせられました 確かになぁと納得する反面なんだか寂しくて恐ろしくてゾッとしました このような視点からのお話も新鮮でとても良かったです 次回も楽しみにしています! (2020年6月14日 19時) (レス) id: af02700ee8 (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - 切ない!!!!!そして次回予告がオレンジさん!!!!!!!!!!楽しみです!!!!! (2020年6月14日 17時) (レス) id: 534e341e06 (このIDを非表示/違反報告)
すもも(プロフ) - 何回読んでも好きな作品なので新しく更新されてて嬉しいです^ ^!本当に面白かったです!これからも頑張ってください! (2020年6月14日 10時) (レス) id: e3e9a8bac6 (このIDを非表示/違反報告)
ray - 色覚異常って男性にしか起こらないからちょっとモヤモヤ…笑 (2019年10月19日 20時) (レス) id: 3d88fa54c6 (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - *vanilla*さん» コメントありがとうございます。お話の中に入り込んで頂き、そこまで読み込んで頂けて作品を書いた身としてもとても嬉しいです。本当にありがとうございます。 (2019年2月13日 18時) (レス) id: 91827dbe31 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ヨウ | 作成日時:2019年1月3日 17時