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そこからはまるでスローモーションだった。
Aは驚きのあまり動けないのかその場で立ち尽くしてる。
届け。
届け。
届け!
思いっきり走って。
思いっきり手を伸ばして。
気が付けばAの袖に手が掛かり、そこからは思いっきり自分へと引き寄せる。
俺が倒れ込むのもお構い無しで、ただその小さな身体を守るように抱き込んで赤信号に輝く横断歩道から引き摺り出した。
思い切り尻もちをつき、尻も痛むがこの腕に抱いた温もりが溶けていなくて安心した。
通り過ぎた車は「危ねぇぞ!」と言わんばかりにクラクションを2回鳴らして去っていった。
どれくらい抱え込んでいたか分からないが、その抱き寄せた肩はフルフルと震えていた。
『ご、めんな、さ…』
「赤信号に飛び込むとか死ぬつもりかよお前!…はぁ、マジで良かったわ…」
『信号、みたけど、色、分かんないから…』
「色分かんねぇってお前…」
やっぱり餓鬼かよ。と言いかけてふと思い直す。
色が、わからない…?
ふとAの顔を見るとサッと血の気が引くほど青ざめている。
「何、隠してんだよ…」
『ち、ちがっ…!』
「違くねぇだろ!何だよ色がわからないって!」
『と、しみつ、く…』
「なんで隠すんだよ…」
「俺、そんな頼りねぇかよ…」
Aの顔が悲しく歪む。
俺の顔は相当酷い顔をしてたんだろう。
情けない、より悲しみの方が大きい。
いつの間にか、あんなに近かったはずのAが離れていた。
俺のせいか、はたまた。
Aはそのまま両手で自分の顔を覆った。
『……見えないの、色がわからないの。
光がわからないの。
もう殆ど、見えてないの…』
顔を覆うその手の隙間から大粒の涙が零れ落ちて俺の洋服を濡らす。
そっとその顔を覗こうとAの手を握って外そうとすると頑なに動かそうとしない。
それでも、君の瞳に少しでも映れるとしたら。
嫌がるその顔と掌の間に自分の手を滑り込ませ、そっとその頬を包む。
Aの目は涙と街頭のライトでキラキラと光っていて。
こんなに綺麗に輝いているのに、何故?
今、この瞳には俺の顔は写ってる…?
なんとも言えない不安が込み上げてきて、気が付けば横断歩道のすぐ側で、そのまま抱き合う。
青信号がチカチカと、瞬きするように俺たちを見守るだけ。
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夜宵(プロフ) - 最後のお話、すごく考えさせられました 確かになぁと納得する反面なんだか寂しくて恐ろしくてゾッとしました このような視点からのお話も新鮮でとても良かったです 次回も楽しみにしています! (2020年6月14日 19時) (レス) id: af02700ee8 (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - 切ない!!!!!そして次回予告がオレンジさん!!!!!!!!!!楽しみです!!!!! (2020年6月14日 17時) (レス) id: 534e341e06 (このIDを非表示/違反報告)
すもも(プロフ) - 何回読んでも好きな作品なので新しく更新されてて嬉しいです^ ^!本当に面白かったです!これからも頑張ってください! (2020年6月14日 10時) (レス) id: e3e9a8bac6 (このIDを非表示/違反報告)
ray - 色覚異常って男性にしか起こらないからちょっとモヤモヤ…笑 (2019年10月19日 20時) (レス) id: 3d88fa54c6 (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - *vanilla*さん» コメントありがとうございます。お話の中に入り込んで頂き、そこまで読み込んで頂けて作品を書いた身としてもとても嬉しいです。本当にありがとうございます。 (2019年2月13日 18時) (レス) id: 91827dbe31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヨウ | 作成日時:2019年1月3日 17時