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『? どうしたのゆめまるくん、虫さん』
「…ちょっと聞きたいことあるんだ。いいかな?」
虫さんの表情は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
相当ショックを受けているんだと思う。
Aちゃんを連れて撮影部屋に入る。
虫さんは口を開けそうにないから代わりに俺が問う。
「Aちゃん、色見えないんだって?」
Aちゃんはグッと目を見開いたあと、それはそれは今まで見たことないくらいに眉間に皺を寄せた。
『……虫さんから聞いたの?』
「ううん、俺が気付いたんだ、何となく不自然だったから」
『そっか…』
そう言うと悲しそうに視線を落とす
Aちゃんの視線の先には一体どんな世界が広がっているんだろう。
俺には見当もつかない。
「あと、もしかして視野狭まってない?」
『え……そんなわけないじゃん。何言ってるのゆめまるくん』
「お願いだから隠さないで、ねぇとしみつ」
俺はそっと扉の方を向く。
これは1種の賭けだ。
『え、としみつくん!?』
そう言って扉の方を向くAちゃん。
もちろんその方向にとしみつなんて居ない。
『…え』
「Aちゃんの所からだったら、扉の方横目で見えるはずでしょ…俺の今の言葉、嘘だったってわかるでしょ…Aちゃん…」
虫さんはもう瞳を潤ませている。
完全なる確信だ。
虫さんも、気づいてしまったようだ。
「見えないんだよね…狭くなってるんだよね…」
それまで強気だったAちゃんも、諦めたように肩を落とした。
『酷いなぁ、ゆめまるくんてば。嘘つくなんて』
「ずっと目の事隠してたAちゃんよりは、じゃない?」
『気づいたら、1部分しか見えないの。真正面だけ。もうダメみたい』
そう諦めたように言うAちゃんにずっと口を閉じてた虫さんが声を上げた。
「なんでAちゃんが諦めちゃうのさ。諦めないでよ…Aちゃんだけは最後まで、諦めないでよ…」
『……ごめん虫さん…』
暫く無言の状態が続き、ゆっくりと小さな声でAちゃんが呟いた。
『今度の、新しい宣材写真の撮影で、カメラマンを辞めようと思う』
俺は声が出なかった。
Aちゃんが、カメラマンを辞める…。
でも、その瞳に迷いはなくて。
「……認めない。僕は、認めないから」
虫さんがそう言い返す。
Aちゃんはそれを静かに見つめるだけだった。
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夜宵(プロフ) - 最後のお話、すごく考えさせられました 確かになぁと納得する反面なんだか寂しくて恐ろしくてゾッとしました このような視点からのお話も新鮮でとても良かったです 次回も楽しみにしています! (2020年6月14日 19時) (レス) id: af02700ee8 (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - 切ない!!!!!そして次回予告がオレンジさん!!!!!!!!!!楽しみです!!!!! (2020年6月14日 17時) (レス) id: 534e341e06 (このIDを非表示/違反報告)
すもも(プロフ) - 何回読んでも好きな作品なので新しく更新されてて嬉しいです^ ^!本当に面白かったです!これからも頑張ってください! (2020年6月14日 10時) (レス) id: e3e9a8bac6 (このIDを非表示/違反報告)
ray - 色覚異常って男性にしか起こらないからちょっとモヤモヤ…笑 (2019年10月19日 20時) (レス) id: 3d88fa54c6 (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - *vanilla*さん» コメントありがとうございます。お話の中に入り込んで頂き、そこまで読み込んで頂けて作品を書いた身としてもとても嬉しいです。本当にありがとうございます。 (2019年2月13日 18時) (レス) id: 91827dbe31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ヨウ | 作成日時:2019年1月3日 17時