夢の終わり。 ページ22
どうやって帰ってきたのか、記憶にない。
ただ、掌の指輪と、温もりだけは絶対に離さないようにと強く握り締めた。
リビングに入ると、椅子の上に佇むバジュラモジュラだけ。
いつもと表情は変わらないはずなのに、どこか悲しげに見えるのは何故だろうか？
もしかしたら、バジュラモジュラはAの行く末を知っていたのかもしれない。
「2人で女子トークして男には秘密かよ、知らせとけよな、大事なことはよ…」
馬鹿な男、と嘲笑ってもらって構わない。
寝室に入ると、デスクトップの隣に並んだ金魚鉢の中で、オレンジで腹に黒の模様の入った金魚が1匹、静かに水面で横たわっていた。
そっとすくい上げて、小さなプラスチックの容器にその身体を横たえると、俺はそれを抱えてマンションの裏へ行き、人目のつかなそうな場所へ連れていった。
ゆっくりと素手で土を掘る。
汚れたって、爪が割れたって構わない。
ある程度の深さを掘ると、その金魚を穴の中心に入れ、その隣に俺の付けていた青い指輪を添えるように置いた。
ゆっくりと、ゆっくりと土をかけて行くと、段々とその彼女の自慢だったオレンジの体は見えなくなって行った。
初めて声を堪えて泣いた。
胸が詰まった。
苦しかった。
ゆっくりと、身体がフラフラになりながらも部屋に戻り、空っぽになった金魚鉢の水を捨て、新しい水を入れる。
とぽとぽと注がれたそれは、向こう側を湾曲に曲げ、不思議な世界を生み出す。
それをそっとまたデスクトップの隣にゆっくりと置くと、俺は大事にポケットに仕舞っていたオレンジの指輪を金魚鉢へと沈めた。
ぽちゃん、と音を立てたそれはカプカプと細かい泡を出しながら底に沈む。
「大人になりきれてねぇよ、俺は」
俺も気付かない間に大人になってしまったようだ。
それはでも、あの甘い記憶は、少年時代の俺をゆっくりと貫く。
左様なら。
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えみ - 話が美し過ぎた… (2020年7月20日 3時) (
レス) id: 4b46f7439f (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - *ameto*さん» ありがとうございます！曲とともに見て頂けて嬉しいです。イメージ通りのお話になっていたでしょうか？是非また他のお話も見て下さると嬉しいです！ありがとうございました！ (2019年9月6日 0時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» ありがとうございます！今回は今までの橙さんとは違った雰囲気のお話だったので、不安でしたがそう言って貰えて嬉しいです！でもやっぱりラブラブなお話が書きたくなるので、また次の橙さんに期待していて下さい！ (2019年9月6日 0時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
*ameto*(プロフ) - 完結おめでとうございます。こうなるとわかっていても避けられない、2人の運命にうるっと来ました…。神曲を教えてくださって、こんなに素晴らしい作品を読ませていただいて、本当にありがとうございました！ (2019年9月3日 0時) (レス) id: 7b77494f9e (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - 完結おめでとうございます！執筆お疲れ様でした！毎度のことながら、素敵なお話をありがとうございます！ヨウさんの書く橙さんが大好きです！心がギュってなって、きゅんってなって。次回作も楽しみに待ってます！また橙さんをお願いします！！！ (2019年9月2日 18時) (レス) id: 318cc8d8b4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ヨウ
| 作成日時：2019年8月27日 11時
