1日目 ページ1
8月25日。
全てのきっかけは、ここから始まった。
久しぶりに帰った実家で見つけた、薄ら汚れて硝子が濁った水槽。
緑の藻がこびり付いていて、中すらよく見えない。
ただ、オレンジ色の影が1つだけ漂っているのが見える。
「母ー。この金魚いつのだっけ?」
母親を呼ぶと、キッチンから顔を覗かせた母が口を開いた。
「あぁ、それ?あんたが小学生だかの時にお祭りで取ってきたやつじゃない。忘れた?」
そう言われてやっと思い出した。
あの時の俺結構金魚すくいが得意で十何匹と持って帰ってきて母を困らせたのを覚えている。
そんな金魚も、もうこんなに数を減らしてたった1匹、寂しそうに狭い水槽を泳ぐ。
なんだかその金魚に愛着が突然湧いてきて、持って帰りたいと思った。
「母ー、金魚貰っていい?」
「何あんた、生き物飼えるの?昔は全部私に押し付けてきたのに!」
そう言いつつも、小さな金魚鉢といつもあげているであろう餌を渡してくれた。
金魚を小さめなビニール袋に入れ替え、その辺にあった空のプラスチックのケースにビニール袋ごと入れ車に乗せた。
i8の助手席には女の子でも友達でもなく、金魚が1匹。
多分、こんな高級車に乗った金魚はこいつだけだろう。
お前は鼻が高いぞ!金魚!なんて馬鹿なことを思いつつ、最近やっと住み慣れた新居へと連れて帰った。
落とさないようにそっとそっと持ち上げて、行儀悪く寝室の扉を足で開け、さて、金魚鉢はどこに置こうかと考える。
丁度パソコンのデスクトップが置いてある隣が空いていたので、そこに金魚鉢を置き、金魚の入ったビニール袋を開け、零さないようにゆっくりと金魚鉢に移し替えた。
金魚はゆっくりと、ちゃぽん、と音を立てて金魚鉢に飛び込む。
「よーし、今日からここがお前の家だぞー」
金魚はあの薄汚れた場所から新しい綺麗な鉢に移ったからか、先程よりも活発に動いている。
実家の水槽よりも小さいが、綺麗になった住処に戸惑っているようにも、喜んでいるようにも見える。
俺は一緒に貰ってきた餌をパラパラと上から注ぐと、金魚は天を仰ぎ、その餌を必死に啄く。
俺はその様子をじっと見つめていた。
137人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えみ - 話が美し過ぎた… (2020年7月20日 3時) (レス) id: 4b46f7439f (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - *ameto*さん» ありがとうございます!曲とともに見て頂けて嬉しいです。イメージ通りのお話になっていたでしょうか?是非また他のお話も見て下さると嬉しいです!ありがとうございました! (2019年9月6日 0時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
ヨウ(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» ありがとうございます!今回は今までの橙さんとは違った雰囲気のお話だったので、不安でしたがそう言って貰えて嬉しいです!でもやっぱりラブラブなお話が書きたくなるので、また次の橙さんに期待していて下さい! (2019年9月6日 0時) (レス) id: 523a836345 (このIDを非表示/違反報告)
*ameto*(プロフ) - 完結おめでとうございます。こうなるとわかっていても避けられない、2人の運命にうるっと来ました…。神曲を教えてくださって、こんなに素晴らしい作品を読ませていただいて、本当にありがとうございました! (2019年9月3日 0時) (レス) id: 7b77494f9e (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - 完結おめでとうございます!執筆お疲れ様でした!毎度のことながら、素敵なお話をありがとうございます!ヨウさんの書く橙さんが大好きです!心がギュってなって、きゅんってなって。次回作も楽しみに待ってます!また橙さんをお願いします!!! (2019年9月2日 18時) (レス) id: 318cc8d8b4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ヨウ | 作成日時:2019年8月27日 11時