−風見鶏− 【 Ｊ 】

６．苦手なアイツ ページ6

車を正面玄関に回し、旦那様を待っていた時。


ズボンに手を入れて猫背で歩いてくる男性と目が合う。
ーーー二宮物産の跡取り息子だ。
何で車で来ないんだ。
珍しい。

　


　

視線を外に向けると、

「よっ、Ｊ！元気〜？」

と、片手を上げて二宮様が俺に話しかけてきた。

　


あんた、頭がキレて空気が読める男だろ？
俺があんたを苦手って、本当は分かって俺に話しかけてんだろ？

　

いくら睨みつけたい感情を抱いても、相手は御曹司なのだ。
俺も冷静な対応を取らなければ・・・な。


　


　


「いらっしゃいませ、二宮様。」


「翔さん、いる？」


「はい、お部屋にいらっしゃいます。」


「あ、そ。サンキュ〜」
　
　


立ち去る二宮様に一礼をし、１８０度逆の方向を向いたとき、
後ろからヒールの鳴らしながら走ってくる足音が近づいてきた。

　

　

「じゅ・・・。松本！」


「はい、奥様。何かご用でしょうか。」

　


　

俺の名前を呼びかけ名字で呼び直した奥様に、ヒヤリとした。
なにしろ、二宮様の前。


ちらっと二宮様に目線をやると、あちらも横目でこちらを伺っていた。


『状況をお察しください』
口には出せず、目で奥様に訴えた。


奥様はコクンと頷き、黙って俺の胸ポケットに何かを入れた。
思わずポケットに手をあてると・・・。


　


　

ーーーーーメガネ？


　


　

奥様は小声で、
「部屋にメガネを忘れてたから。」
と。


俺は黙って軽く会釈し、車のある方に向き返した。
すると、車のミラー越しに見えた二宮様が、
体半分こちらを向けて見ていた。


ただただ、表情を変えずに、俺の背中をじーーっと見ているような。
粘り気のある視線で。


そして、目が合った。
二宮様は片方の口角だけ上げて、薄ら笑いを浮かべて屋敷に入っていった。


もしや・・・。
メガネの受け渡しだけで、バレてしまったか・・・。


いや、俺もそれなりに用意周到に事を運んできたはずだ。


が、しかし。


二宮様の動き、
今後、要注意だな。

　


　

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