−風見鶏− 【 Ｊ 】

４６．見てたの？　　※9/10 ページ46

昼間の暑さを翻すくらい、夜風が涼しく感じてきた。

マロンの散歩中に感じた風が潮風混じり。

思わず目を閉じて、ゆっくり鼻で息をして、潮風を吸い込んだ。


「マロン、潮風が少し冷たく感じてくると、もう夏も終わりだね。」


話しかけたマロンは、舌を出してゼーゼー言ってる。

犬はまだまだ秋を感じるほどじゃないのかな？


　


　

リードを引いて海に向かって歩いていると、後ろから、

「奈々さーん！」

と私を呼ぶ声が。

振り返ったら、大倉だった。


　


　

「大倉じゃん、この間は祭りお疲れ様でした。」

「奈々さんも。矢倉まで来てくれてありがとうな。」

「あんなに人が多いとは予想外だったわー。」

「でもさ、松本くんの紳士的な対応で迷子にならずやったんちゃうん？」

　

　

大倉の言葉に驚いて、目を大きく見開いた。

言葉も出てこない。

その『紳士的な対応を見てました』って感じの口調だったから。

もしかして・・・矢倉から私たちが見えてたの？

矢倉に向かう道中のカバディとのやりとりを思い出して、

恥ずかしさに顔が火照ってきた。


　

「そう？カバディの濃い顔が目印になって、迷子にならずに済んだよ。」


　

わざとクスクス笑ったんだけど、大倉は表情変えずで私を見てた。

そんな大倉に違和感を感じ、しばらく大倉の顔を見て様子を窺った。


　

「わかってないのは、当の本人同士なんだよなー。」

「？？？」

「せっかくの再会やで？奈々さん、距離縮めて頑張ったらええやん。」

「ちょ、ちょっと。何言ってんの？」

「また、この先の突き当たりの海で、松本くんの名前叫んで気持ちを抑えるん？」


　


大倉の言葉に私は息が止まった。

卒業式の後、私が海で叫んだ姿を・・・見てたの？

私は大倉を見たまま固まってしまって、

そんな私に「早く進もうよ〜」と急かすようにマロンがリードを引っ張る。


　


「ほら、犬があっち行こうって言ってるよ？」

「あ・・・うん。」


　

マロンの向かう方向の先は海で、いつもの散歩コースだ。

なぜか大倉も私の隣を歩いて、且つ何か言いたげだった。


　


「なんで・・・知ってるの？」

「何を？」

「海に向かって私が叫んでたこと。」


　


　

私はマロンを見たまま歩き、大倉の顔が見れない。


　

大倉はポケットに手を突っ込み、数歩ほど歩いたときにポツリと話し始めた。

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