−風見鶏− 【 Ｊ 】

４１．迷子にさせないように ページ41

歩くペースが遅いのに、

この人の多さがやはり障害で、

奈々を見失いそうになる。


　


　
迷子にさせるのも責任感じる。

ただそんな軽い気持ちだったんだけど。

何気なく奈々に左手を差し出した。


　


　

「ん。」

「・・・ん？」

「手。」

「・・・手？」

「迷子になられると、俺困るから。」


　


　


　

高校時代は自然に肩組んだり、冗談で腕組んだりできたもんだけど。

この年になると、状況は違うんだろうか。

奈々は躊躇した。


　


　

「ほら、早く！」


　


　

左手の指をクイクイとして促すと、静かに奈々が手を添えた。


　


　

状況が致し方ないとはいえ、

改めて手を繋ぐとお互いぎこちなくて。


　


　


ギュッと握りしめるグーのカタチは、

何だか抵抗があったから力を入れず。

お互いが力を入れないから、パーのままで。


　


　

でもお互いの指の間に指がやんわりと入り込んでて。

歩く度に体が上下し、そのリズムでお互いの指の間がこすれる。


　


　

こすれる奈々の指の肌の感触が、

「こいつは女だったんだ。」

と思い知らされた気がした。


　


　

この指の隙間が、俺たちの今の微妙な距離感なんだろうな。


　


　

昔の俺らなら特に抵抗なく

『こいつ、友達だし。女感じねーし。』

って、指の隙間もないくらいガッツリ繋げてたかもしれない。


　


　

　
でも、今この瞬間は『性別の意識なく』ってわけにはいかなくなってる。


　

　

俺らの間に、今、

『男女の友情は成り立ってない』

のかもしれない。


　


　

　


大倉のいる矢倉に向かう間、会話も少なめで、

繋いでしまった手に意識がいってしまって。


　

　


　


『はぐれてはいけない』って思った俺の計算が狂ってしまったようだ。


　


　


　

好きとかそういうトキメキは全くないけど、


　

コイツを、


　

奈々を、


　


　

　

女として意識しちまった俺に気づいた出来事だった・・・。

　


　


　

　


　

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