−風見鶏− 【 Ｊ 】

５．笑い声 ページ5

Aを壁にもたれさせ、唇を首筋に移動しようとしたとき。


「きゃーーーーっ！！」


「ちょっ、お前何やってんだよ！！」


「申し訳ありません、翔様。」


「どうしてくれんだよ！！
今日中に目を通しておかなくちゃならなかった文書が。
順番どおりに整えてたのに。
お前さ、これで何回目だよ！！」


「す、すみません。」


ーーーーー藤崎、また何かしでかしたのか。
ちっ、せっかくのいいところを。


「A、ごめ・・・」


言いかけたところで、Aの人差し指が俺の唇に当てられた。


「いいの、あなたの出番なんでしょ？
ほら、ネクタイをきちんと直して。
翔のところへ行ってきてちょうだい。」


年上の女は空気が読めるから、心地よさ度が上がる。


軽く一礼をして、翔様のお部屋に向かった。


「藤崎！何をしているんだ。」


「松本様、違うんです。お掃除をしようと窓を開けたら突風が・・・」


「藤崎、『違うんです』じゃないだろ。
翔様、藤崎が申し訳ありません。」


翔様にお詫びを申し上げ、ちらりと藤崎を見たら。
口をへの字にして突っ立ってやがる。


「翔様にお詫びしたのか？」


藤崎が翔様の顔をバツ悪そうに見る。
翔様は腰に手を当て、仏頂面で藤崎を威嚇してるかのようだ。


「す、すみませんでした。」


「『すみませんでした』ではない。『申し訳ございませんでした』だ。」


「・・・申し訳ありませんでした、翔様。」


翔様は大きなため息を吐き、屈んで散らかった文書を拾い始めた。
藤崎も慌てて一緒に拾い始める。
俺もその中に加わろうとしたとき、


時計を見て、はっとした。


「翔様、申し訳ございません。旦那様のご出発時間故に。」


「あぁ〜、いいよいいよ。この女に全部拾わせるからさ。」


「この女！？私は藤崎です！名字がちゃんとあります。」


「藤崎！余計な言葉が多いぞ。慎みなさい。」


おてんば？
じゃじゃ馬？
その度胸だけは褒めてやる。


翔様に一礼し、出発の準備にとりかかったのだった。


ドアを閉めて少し歩いたとき、背後から、
「はははっ！！！」
と、翔様が大きな笑い声が聞こえた。


翔様を、あんなに陽気に笑わせる藤崎って。


ゲームの展開を楽しみにするゾワゾワ感が、
俺の体中を駆け巡った。


翔様が素で笑う声を聞いたのは、
いつぶりだろうか・・・。

　


　

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