−風見鶏− 【 Ｊ 】

３８．恋の定義 ページ38

「ほんまに久しぶりやな、松本くん。元気そうやんか。」

「お陰様でな。お前は？和太鼓叩きの職人にでもなったの？」

「ちゃう、ちゃうよ！祭りのボランティア。盆踊りで俺が和太鼓叩くねん。」

「祭りって、週末にあるやつ？」

「それそれ。あれ？何で知ってんの？」

「奈々に聞いてさ。」

「えっ？奈々さんに会ったん？」

「うん、偶然な。ん？お前、奈々といまだにつるんでんの？」

「たまに道端で会うかな？」

「道端って、井戸端会議じゃねーんだからさ。」


俺は大倉の肩を叩きながら、二人でゲラゲラ笑った。


　


俺と奈々と、大倉も登下校の方向が一緒でさ。

学年は違えど、時折三人でファミレスに寄り道したりしてさ。


可愛がってた後輩だったんだ、コイツは。


　


俺が卒業後地元を離れるって話したとき、

「男泣きはかっこ悪い」とか言いながら目を潤ませて、

奈々に励まされてたっけなー。


　


あぁー懐かしい。


　


「松本くん、祭りに来るん？」

「あぁー、奈々と行くけど。」

「奈々さんと来んの！？
時を経て再会した二人は、恋が芽生える〜ってな状況じゃないっしょね！？」

「ない、ない。」


慌てて大倉に否定した。

大倉が「やべ、練習に戻らなあかんわ！」と言い、

「また連絡しますから！」と去っていった。

大倉に手を振り、スーパーに向かうため踵を返した。

そして、ふと頭でこだましたんだ。


　


『恋が芽生えるって状況じゃないっしょね！？』


　


−−−恋って、恋の定義ってなんだ？


　

俺のAへの気持ちって、『恋』なんて淡い気持ちじゃなく、

何て呼べば辻褄が合うんだろうか。


Aを欲して仕方なくて。

求めても思うように欲を満たすことはなくて。

ドロ沼のこの感情は、

ただの『好き』でも『愛してる』でも片付けられないようなこの感情は、

何て呼んだらいいんだろうか。


大事な人、でも公言できない。

全部が秘め事。


　


そして、ふと思ったんだ。


大倉や奈々は、俺みたいな苦しい恋愛を知らず、

普通の恋愛をしてこの地元で過ごしてんのかな？


って。


　


もしかしたら、俺が執事を選ばなかったら。

俺にもそんな平々凡々な未来があったのかな・・・。


−−−なんてさ。


思考が俺らしくない。


予想だにせず与えられた夏休みが、

少しずつ俺の思考を狂わせてきてるようだった。

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