−風見鶏− 【 Ｊ 】

３．中毒性−１ ページ3

おぉっと・・・。
旦那様の朝の朝食の準備をしながら、しばらく思い耽ていた。


そんな気の抜けた俺を我に返らせた声。

　


　


「あら、松本。おはよう。」


「・・・おはようございます、奥様。」

　


　


それは、奥様の声だった。

　


　


長い髪に、
俺より頭１つ分近く背の低い女性で。
とても外見は若く見える。


意思の強そうな目をしてるけれど、
その奥に優しさを兼ね備えている。


それが、櫻井家の奥様である。

　


　


　


「あなた、今日はお帰りは早いのかしら？」


「今日？あ、あぁ・・・今日は・・・。」


「旦那様のご帰宅のご予定は、午後９時頃でございます。」


「そうなのだよ、A。」


「そう・・・。相変わらずお忙しいのね。」


　
　
　
　
　
　
言葉を濁した旦那様を咄嗟にフォローするために、
間髪いれずに口から出たデマカセ。


旦那様のスケジュールは、本来は本日夕刻５時には業務が終わっている。
でも、その後は別荘に出かけると数日前からおっしゃっていた。


別荘地。
旦那様の、他の女との密会場所である。


櫻井家のゴタゴタを未然に防ぐ気転をきかせるのも一苦労だ。


しかし、本当は奥様はわかってらっしゃる。
わかってらっしゃるけど、敢えて口にしないのだ。


なぜなら・・・。


奥様が旦那様に言い終わったあと、俺の顔を見た。


ん？


奥様に『何かご用事でも？』と聞く素振りを見せたら、
奥様は小指を自分の唇に、


　


　


トントントン・・・・

　


　


と当てて見せた。

　


　


　


俺は口角を少し上げて、軽くお辞儀をした。


小指を唇に当てて数回弾く仕草。


それは・・・


『あとで、あの部屋で待ってるから。』


という、誘いの合図なのだ。

　


　


　


そう。


旦那様が他で女を抱いているであろう日は、


奥様の寂しさを受け止めるべく、


俺は奥様とひっそりと密会。

　


　


　


奥様の寂しさのはけ口にしてくれたらいい。


そして、この情事を利用して、俺は今の地位を守るのだ。


最初はそう思ってた。


　


　


これだけ回数が続くと。
俺も一人の人間ってことだろうな。
「情」ってやつが生まれる。

　


　


『禁断』


---------それは、甘い蜜のように。


---------そして、中毒になるような。


バトラーではなく松本潤に戻してしまう。
錯乱させちまう、危険なワード。

　

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