十匹目 ページ10
「____て、起きて、A」
漂う浮遊感。
不思議と心地が良くて、声に従い目を開く。
暗い空間の中で私は、着物を着た男性の目の前に立っていた。
…この人、何処かで。
「久しぶり、何年ぶりかな」
『…何処かで、お会いしましたよね、でも、ごめんなさい、よく、思い出せなくて』
「いいよ、そのままで」
私は知らなさすぎる。
曖昧に記憶の残り香ばかりを追って、どうしようもない喪失感に胸を締め付けられる。
「元気そうで良かった、でも、何でまた、この森に入ったの」
『え、…友人を、探しに来たんです…行方不明で』
「…もしかして、鬱のこと？」
『っそうなんです！何か知りませんか、今何処にいるかとか、あと、何で森に入ったのかとか…！』
「……やっぱり、あいつ…くそっ、ちゃんと止めてれば…！」
拳を強く握り、悔しそうに顔を歪める彼は、鬱の知り合いのようだ。
様子を見る限り、かなり親しい仲なのだろう。
私の知らないところで、鬱が新しい交流を作り、一人で行動しているのが、成長しているようで、何故か知らないが、不安と共に嬉しい気持ちも胸にあった。
「状況は大体分かった、A、後は任せて、君は森を出て」
『え、そんなことできません！鬱だけじゃなくて…そうだ、あの男の人、神社で男の人に会ったんですけど、その人が、一緒に来た友人を殺すって、助けなきゃいけないのに…！』
「鬱だけじゃなくて、あいつらまで…」
『みんなのことも、知ってるんですか…？』
「…悠長に話してる時間はない、Aはとにかく急いで森から出るんだ、ゾムに会ったなら、尚更…」
『…ぞむ…？』
そういえば、昔会った時に名乗った名前は、そんな感じだった気がする。
ゾム、さん。
名前を思い出したところで、結局、私はあの人のことなんて全然知らない。
目の前のこの男の人の方が、まだ懐かしい感じがする。
「覚えなくていいよ、思い出さなくていい、でも早く逃げて、あいつの目的はAなんだから」
『あの、それってどういう意味なんですか…私、あの人のこと、ゾムさん、のこと、全然知らないのに…』
「Aは知らなくて当然だよ、でも、それを聞いて少し安心した」
『え、どうして…』
「だって、ゾムのことは忘れてても、俺のことは、少しでも覚えていてくれたんでしょ」
『…それは…』
「ありがとう、俺も、一度だってAのこと、忘れたことはないよ」
微笑む彼の名を、やっと思い出せた。
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うっちゃん - 私もこういうの好きです。~^〜^~ (2020年9月24日 16時) (
レス) id: 000505beae (このIDを非表示/違反報告)
星舞__(*´ `*) - これ読んでる時号泣しました……こういう作品私めっちゃ好きなんですよー！更新頑張ってください！ (2020年9月23日 16時) (レス) id: 5f2a936d4a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：五千時 x他2人 | 作成日時：2020年8月14日 10時
