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緑は、あの後、微かに手を握り返してくれた。
それだけで十分だった。
取り敢えず、これで確信が持てた。
私が生きると、確かな意思を持つ。
それが、彼女達を安心させる重要な鍵だと言うこと。
『…沢山あるのね、エーミール様の趣味かしら』
「はい、時々森の方に行っては、蝶や蛾を捕まえて標本になさるんです、いつも嬉しそうに報告してくださるんですよ」
図書室の一角に飾られている無数の標本。
あまりじっくりと鑑賞したことはなかったが、舞うことができなくても、こんなにも綺麗だなんて。
…でも、何かに囚われるのは、辛くはないのだろうか。
「エーミール様はお優しい方なので、虫に対しても、きっと無害なのだろうと思っていたんです、嫌いではあるけれど、何処か悲しくなるんです…」
『…まるで、死を具現化したような物だと、私は思うわ、貴女も、そう思っているんじゃないの？』
「こんなにも、死が綺麗でしょうか」
『死は恐ろしいわ、でも、誰にでも等しく与えられた唯一のものだから、人も虫も、自然も、平等であると教えてくれる、そんな儚くも美しいものよ』
彼女は驚いたように、私を見ていた。
開いた窓から抜ける風は、彼女の髪を揺らし、外の陽気を運んだ。
鼻を擽る、太陽の匂い。
［…死を、恐れない生き物でありたかったです］
［……どうしたの、急に］
［この標本を見る度に思うんです、この蝶達は、死をこんなにも綺麗に写してくれるじゃないですか、まるで、死を当然のものとして、受け入れてるような…人が、みんなそうであれば良かったのにって］
［…私は、この標本を見て、怖いとしか思えないよ］
［…やっぱり、死ぬのは怖いですか］
［……ううん、怖くない、誰かの為なら、私の命一つで、誰かを救えるなら、怖くないよ］
死を恐れない私を、強く逞しいと、称賛する人は世界でどれだけいたのだろう。
少なくとも、彼女達は、私のこの言葉に怯えていたのだろう。
『…死にたくないな、誰かの為でも』
「っ…本当、ですか…？」
『うん、誰かを犠牲にする方法なんて、結局は誰かを傷つけるんだって、何となく、今ならわかる気がするの』
「…約束、してください」
『…うん』
「もう、二度と…自分の命を、誰かのために使わないでください…」
『…うん、約束する、ありがとう、
彼女の甘い匂いに誘われて、また一匹、蝶が迷い込んだ。
針を刺された仲間を見て、蝶は何を思うのだろう。
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書籍姫 - 控えめに言って泣いた。好き。 (5月24日 14時) (
レス) @page28 id: e3ea7725f8 (このIDを非表示/違反報告)
セエレ(プロフ) - こんな神作がホイホイ見つかるもんだからこの界隈はやめられねえ… (5月24日 2時) (レス) id: b81e176fb0 (このIDを非表示/違反報告)
セエレ(プロフ) - 完結おめでとうございます！思ってたのと360°くらい違ったのにお気に入り小説のBest3に入るくらいの神作でしたよ…もう一度で二度どころか十度くらい美味しかったです…ご馳走様でした…書籍化して良いと思うこの小説. (5月24日 2時) (レス) id: b81e176fb0 (このIDを非表示/違反報告)
なな - コメント失礼します！想像を斜め上行く神作でした！！他の作品も見てみますね！！ (2022年12月14日 19時) (レス) @page27 id: 7cadbb1f0e (このIDを非表示/違反報告)
ぽぺに(プロフ) - 神作品です！大好き！ちょっとメリバちっくな所大好きです！ (2022年7月10日 10時) (レス) @page27 id: bcadc0cb73 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：五千時 x他1人 | 作成日時：2020年4月19日 13時
