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「A…!」
グルッペンに部屋まで送ると言われ、廊下を歩いていた途中、後ろから名前を呼ばれた。
振り返れば、目に涙いっぱい溜めて、不安そうにこちらを見るみんながいた。
…そうだ、もう、これで。
誰も傷つかなくて済むんだ。
私も、みんなも、やっと、互いを守らなくて済む。
『…久しぶり、みんな!』
笑顔で両手を広げれば、数人は飛びつき、数人は恐る恐る近寄って、私はそれが何だか面白くて、泣きながら笑ってしまった。
今までは、ヒロインだと思い込んでたけど、みんな私と同じだった。
ドレスや、令嬢という立場に違和感を感じながら、生きていたと思うと、それも面白かった。
『ありがと、グルッペン、わざわざ送ってくれて』
「明日からまたまともに会えないだろうし、今は少しでも長く一緒にいたいからな」
『…なんか、素直だね…恥ずかしいんだけど』
「隠すのも面倒だ、素直になった方が楽」
『わっ…ととっ、甘えたがりかぁ…?』
半開きの扉をぐっと押し、ほんの少し強い力で抱き締められ、二人揃って薄暗い部屋に入る。
数歩よろけて下がっても、グルッペンは全く離れることはなく、力強く抱き締められる。
…安心する、この体温も、この匂いも。
『…ねえ、グルッペン』
「…何や」
『好きだよ、愛してる』
「…知っとる」
『あは、バレてた…?』
「…お前は、本当に…可愛すぎる…」
『グルッペンだけだよ、そんなこと言うの』
「アホか、俺だけでええねん」
額が合わさって、視線が交わる。
少し擽ったい想いが、グルッペンも同じであればいいと思う。
数秒見つめ合って、私の方からキスをした。
すぐに離れたけど、またすぐに合わさった。
「…っは、好きや、好き、A、好き」
『私も好き、グルッペンが、一番好き』
「…本当に?」
『本当』
「…俺が一番か、ええな、それ」
…また、あの目だ。
でも、今ならずっと見ていたい。
グルッペンの頰に手を置いて、もっと、近くで見たいと顔を引き寄せる。
お腹の奥がじんじんと熱を持つ。
『グルッペンは、私が一番?』
「当たり前や、Aしかおらん」
『…んふ、確かに、いいね、これ』
欲のまま弧を描く口元とは裏腹に、私の中の何かが抵抗して、警報を鳴らしている。
必死に体に止まれと呼びかけて。
…ああ、煩いな。
今くらい、全部忘れさせて。
全部、彼に委ねさせてよ。
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書籍姫 - 控えめに言って泣いた。好き。 (5月24日 14時) (レス) @page28 id: e3ea7725f8 (このIDを非表示/違反報告)
セエレ(プロフ) - こんな神作がホイホイ見つかるもんだからこの界隈はやめられねえ… (5月24日 2時) (レス) id: b81e176fb0 (このIDを非表示/違反報告)
セエレ(プロフ) - 完結おめでとうございます!思ってたのと360°くらい違ったのにお気に入り小説のBest3に入るくらいの神作でしたよ…もう一度で二度どころか十度くらい美味しかったです…ご馳走様でした…書籍化して良いと思うこの小説. (5月24日 2時) (レス) id: b81e176fb0 (このIDを非表示/違反報告)
なな - コメント失礼します!想像を斜め上行く神作でした!!他の作品も見てみますね!! (2022年12月14日 19時) (レス) @page27 id: 7cadbb1f0e (このIDを非表示/違反報告)
ぽぺに(プロフ) - 神作品です!大好き!ちょっとメリバちっくな所大好きです! (2022年7月10日 10時) (レス) @page27 id: bcadc0cb73 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:五千時 x他1人 | 作成日時:2020年4月19日 13時