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『…なに、してるの…』
「っ…」
私の腕を掴み、千里さんに向けたこの怒りを阻止したのは、紛れもない、被害者である空色だった。
何故、と問うも、返答は返ってこず、ただ悔しそうに唇を噛み締めるのみ。
横目に千里さんを見れば、愉快そうに顔を歪めて、嘲笑う。
『っ…離しなさい、一度打たないと気が済まないっ…!』
「おやめください!私は、私は、何も…」
『抵抗の意思すら見せない貴女の顔に、傷をつけたことを無かったことに?貴女が許そうが、私はこの怒りを抑えることは出来ないわ、離しなさい、これは命令よ』
「…お願いします、どうか、どうか…その手を、下ろしてください」
悲痛な声だった。
心の底から、訴えるような声だった。
ついには涙を零し、その唇からは血が垂れた。
可笑しい、何故、何故、何故!
何故こんな女を守る、何故貴女が辛い思いをしなければいけない、何故、私は何も出来ない!
「無力の負け犬さん、精々、自分の非力さを恨むことね、その強情な態度も、いつまでもつか見ものだわ」
『っ…!』
私の耳にわざわざ口を寄せ、そんなことを吐き捨てては軽い足取りでこの場を去っていった。
漸く、彼女は安堵したのか、身体の力が抜けてその場に崩れるようにして座り込んだ。
口元を押さえ、浅く息をしている。
『…聞きたいことは沢山あるけれど、まずは医務室に行きましょう、体調も優れないでしょう』
「いえ…お気遣いなく、私は、大丈夫ですから」
『そんな弱々しい声で何を言ってるの、少し休んだら必ず医務室に行きます』
「駄目なんです、それだけは!」
声を荒げた彼女に、驚き、支えようと肩に回していた腕を引いてしまう。
これには彼女自身も驚いたようで、慌てながらも、言葉として聞き取れるものは、その口から発せられることはなかった。
『…ならせめて、私の部屋で手当てをさせて頂戴、少し腫れてしまっているから、早く冷やさないと』
「…大丈夫です、ここからなら私の部屋の方が近いですし、A様の手をこれ以上煩わせるためには…」
『……』
「そ、それに、気分が優れないのはA様の方でしょう、お疲れのようですし、私は、これで」
頑なに話したがらない訳、他人に知られたくない訳は、全くもって見当もつかないが、確実に、千里さんが裏で手を回しているのは察せる。
本当に、あの人こそが悪役に相応しいじゃないか。
握った拳は、じわじわと熱を持った。
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五千時(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます!凄く嬉しいです!励みになります〜!更新頑張ります!! (2020年4月16日 19時) (レス) id: 76bb208c06 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - このお話最高です!推理要素もあってとても楽しめます。今ある話まで一気読みしちゃいました笑更新頑張ってください!! (2020年4月16日 18時) (レス) id: abc489c33a (このIDを非表示/違反報告)
五千時(プロフ) - Black Aliceさん» コメントありがとうございます!夢主以外の視点も書きます!近々その話が出ると思いますのでお待ち下さい! (2020年4月13日 19時) (レス) id: 76bb208c06 (このIDを非表示/違反報告)
Black Alice(プロフ) - とても面白い小説に巡り会えたと心から思える程、面白かったです!1つ質問なのですが、夢主以外の視点は書いたりしますか? (2020年4月13日 18時) (レス) id: 10501c80b3 (このIDを非表示/違反報告)
五千時(プロフ) - ゆうさん» コメントありがとうございます!いやぁぴくとさん黒幕で使うの夢だった…!更新頑張ります! (2020年4月12日 22時) (レス) id: 76bb208c06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:五千時 | 作成日時:2020年3月30日 22時