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驚いて、間抜けな声が口から漏れる。
その言葉通り、グルッペン様は申し訳なさそうに目を細め、眉を下げた。
「本当は、文通から始めようと思っていたんだ、友人としてでもいい、お互いを知って、お前がいつか俺の愛に気づき、俺の求婚を受け入れてくれればいいと思っていた、しかし、待てなかったんだ、すぐにでも、A、お前を、俺のものにしたかった」
なんて、優しい声だろうか。
お母様からも、お父様からも、お姉様からも、使用人たちからも、友人からも。
こんなにも、愛を感じられる声を、私は聞いたことがなかった。
「人を愛したのはこれが初めてだ、拙い愛情表現しか、俺にはできない、だから、こんな強硬手段をとってしまった、すまない…」
頰に触れた、彼の白い手を、拒みはしなかった。
割れ物に触れるような、撫でるだけの、そんな触れ方に、少なからず、嫌悪は感じていなかった。
それはもう、愛しているのか、それすらもわからない彼からのキスの拒み方を、忘れてしまうくらいには。
『…もう一度、…と言ったら、はしたないですか…?』
「…いや、愛らしくて、可笑しくなりそうだ」
馬鹿馬鹿しいとすら思えた。
お互い、会うのはこれで二度目。
政略結婚や、お見合いですら、もっと回数を重ね、互いを知ろうと、受け入れようと奮闘するのに。
こんなにも、簡単に、彼を受け入れられてしまうのは、私がどうしようもない、痴女であったとでも言うかのようだった。
『…婚約まで、少しお時間をいただけませんか』
唇と唇が離れて、数秒見つめあってから、ゆっくりと口を開いた。
『期間は、わかりません、グルッペン様にとって、とても長く、酷な時間であることは間違いないでしょう』
「…ああ」
『ですが、貴方に妻として迎えられる身であるならば、グルッペン様、私は、心の底から貴方を愛す義務があります、これは紛れもない私の意思です、ですから、どうか、…』
今にも解けそうな指先を絡めて、離れないようにときつく握った。
驚いたように私を見つめるグルッペン様に微笑みかけ、人生で最初で最後、最大の宣言をする。
『私を、貴方の、虜にしてください』
何ともはしたない言葉だ。
夫でも、恋仲でもない、そんな男性に向けた、挑戦と扇情であり、これは、どうぞ自分に色欲を向けてくださいと言っているようなもの。
所謂、お誘いだ。
「宣戦布告は、嫌いじゃないな」
据え膳食わぬ、彼はそんな男じゃなかった。
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五千時(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます!凄く嬉しいです!励みになります〜!更新頑張ります!! (2020年4月16日 19時) (レス) id: 76bb208c06 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - このお話最高です!推理要素もあってとても楽しめます。今ある話まで一気読みしちゃいました笑更新頑張ってください!! (2020年4月16日 18時) (レス) id: abc489c33a (このIDを非表示/違反報告)
五千時(プロフ) - Black Aliceさん» コメントありがとうございます!夢主以外の視点も書きます!近々その話が出ると思いますのでお待ち下さい! (2020年4月13日 19時) (レス) id: 76bb208c06 (このIDを非表示/違反報告)
Black Alice(プロフ) - とても面白い小説に巡り会えたと心から思える程、面白かったです!1つ質問なのですが、夢主以外の視点は書いたりしますか? (2020年4月13日 18時) (レス) id: 10501c80b3 (このIDを非表示/違反報告)
五千時(プロフ) - ゆうさん» コメントありがとうございます!いやぁぴくとさん黒幕で使うの夢だった…!更新頑張ります! (2020年4月12日 22時) (レス) id: 76bb208c06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:五千時 | 作成日時:2020年3月30日 22時