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理解が追いつかないまま連れてこられたのは、庭園の入り口と思わしき扉の前だった。
ゆっくりと降ろされたかと思うと、グルッペン様は優しく微笑まれ、扉に手をかけた。
そして、空いている方の手を、私の前に差し出し、その手を取れば、満足そうに扉を開いた。
『っ、わぁ…!』
開かれた扉の先に広がるのは、色とりどりの花の道だった。
まるでトンネルのように、視界いっぱいに広がる美しい色彩と花の香りに、思わず感嘆の声を漏らした。
しかし、はっと、あんぐりと空いた口をはしたないと気づき、口に手を当てるが、グルッペン様は、そんな私を見て可笑しそうに笑った。
「Aは花が好きだろう、あの日着ていたドレスにも、花の刺繍があったしな」
『…覚えていてくださったんですか』
「惚れた女のことを忘れるわけがないだろう」
あの夜、私が着て行ったのは、お姉様よりも目立たないようにと、ドレスの中でも地味で装飾の少ないものだった。
それに、刺繍は小さく、夜の闇の中では、微かな灯りがあったとはいえ、簡単に見つけられるものではなかったはずなのに。
「こんなところで足を止めるのは勿体ない、先へ行こう」
『…はい』
変な人だと思った。
ただ一度、私が主役なわけでもないパーティーで、他愛もない会話をしただけの、友人にも満たない関係から、何もかもすっ飛ばして、夫婦になろうだなんて。
『…綺麗』
花の道を抜けた先に、広がる薔薇の空間。
とても綺麗で、綺麗過ぎて、別の世界に迷い込んでしまったかのような錯覚さえ覚えた。
しかし、そんな私を連れ戻すように、グルッペン様は私の手を引いた。
「花に見惚れるのもいいが、俺のことも見てはくれないか」
『…貴方のお望みならば、いくらでも』
「…困ったな、俺は、Aの意思で俺を見て欲しいのだが、やはり、お前の心はここには無いようだ」
『…』
悲しげに揺れる澄んだ瞳が、全てを見透かすかのように私を見ていた。
「…すまなかった」
『へ…?』
吸い込まれそうなほどに見つめられていたかと思うと、突然、彼は謝罪を述べた。
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五千時(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます!凄く嬉しいです!励みになります〜!更新頑張ります!! (2020年4月16日 19時) (レス) id: 76bb208c06 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - このお話最高です!推理要素もあってとても楽しめます。今ある話まで一気読みしちゃいました笑更新頑張ってください!! (2020年4月16日 18時) (レス) id: abc489c33a (このIDを非表示/違反報告)
五千時(プロフ) - Black Aliceさん» コメントありがとうございます!夢主以外の視点も書きます!近々その話が出ると思いますのでお待ち下さい! (2020年4月13日 19時) (レス) id: 76bb208c06 (このIDを非表示/違反報告)
Black Alice(プロフ) - とても面白い小説に巡り会えたと心から思える程、面白かったです!1つ質問なのですが、夢主以外の視点は書いたりしますか? (2020年4月13日 18時) (レス) id: 10501c80b3 (このIDを非表示/違反報告)
五千時(プロフ) - ゆうさん» コメントありがとうございます!いやぁぴくとさん黒幕で使うの夢だった…!更新頑張ります! (2020年4月12日 22時) (レス) id: 76bb208c06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:五千時 | 作成日時:2020年3月30日 22時