全力疾走

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しかし、これってなかなか上から目線なやり方よね？

電話番号だけポイッと置いていくってさ。

「俺に気があるなら掛けてこいよ」的な？

自信が丸見え。

しかもこの人、あたしの名前すら知らないよね？

電話して、名乗ったところで、

「誰？」とか言われちゃうヤツじゃないの？



はぁぁ…


何度目かの溜め息と共に吐き出されるのは、どうにか理由を探して逃げようとする気持ちの下にある、本音。

「ーーチャンス、あったりするのかな…」

こんな非現実的なシチュエーション、妄想すらした事なかったけれど、

イイなと思う人と繋がれる可能性のある電話番号がこの手の中にあるのに、それをゴミ箱に捨てるなんて、どう考えても勿体ない話だ。

「リハビリには、ちょうどいいのかも…」

非現実的過ぎて、逆に失敗してもリアリティはないし。


「ーーよし！」


間違えないようにゆっくりと11桁の番号を打ち込んで、いざ行かん。

プルルルル…

こういう時の呼び出し音って、いつも以上に無機質で冷たく感じるのは何故だろう。

１コール目はドキドキ

２コール目はソワソワ

３コール辺りから不安が押し寄せてきて、

５コールを過ぎる頃には、その無機質な音が拒絶の音に聞こえてくる。

相変わらず、メンタル弱いな…

心が折れかけた頃、急に止まった音の代わりに鼓膜に届いたのは、

「ーーハイ…」

ーーものすごく不機嫌そうな声だった。

さっきのコール音の方がまだ幾らか温かみがあったんじゃないか？

それでもその声に、それなりに高鳴ってしまうあたしの乙女ゴコロよ。

まだ早い、フライングだよ、落ち着けよ、と言いたい。

「もしもし？」

黙ったままのあたしに更に苛立ったように届いた声に、慌てて応えた。

「あ、の。昨夜ソファーをお貸しした者ですが…」

若干声が裏返った上に、なんとも格好のつかない名乗り方だが、他にどう言えばあたしだと伝わるのか分からず、考え抜いた結果だった。

「あぁ！オマエか！

そうやんな。
俺、自分の名前聞いてへんかったもんな。
何て言うん？」

「小河です。」

「小河、何ちゃん？」

「ーー小河Aです。」

「A、な。」


ナチュラルだ…

オマエ呼びから、流れるように自然に下の名前を聞き出し、更に呼び捨て。

最近手を出してみた乙女ゲーの攻略キャラよりもナチュラルだ…




今更気付いた。

ゲームすら攻略サイト頼りなあたしに、こんな生身のモテ芸能人、絶対に攻略出来る訳がない…

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