全力疾走

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ただでも忙しい月曜日、更に先週末の早帰りのツケで山積みの仕事をこなしているうちに、気付けば昼休憩の時間になっていた。


「センパイ、お昼行きましょ。
今日は外にしませんか？」

いつも通り誘いに来たリカちゃんだけど、社食を避けようとしてくれたのは、きっと彼女の気遣い。

「マサラティー飲みたいから、カレー屋にしようよ。」

「センパイ、やたらマサラティー推しですよね。」


忙しい仕事と、くだらない会話と、美味しいお昼ご飯があれば、ほら、なんて事ない。


みんなが心配してくれる程、

自分が心配していた程、

もう傷なんてないのかもしれない。


大丈夫、ちゃんと前に進めている




お気に入りのカレー屋さんでお腹も心も満たされて、午後の仕事に向かおうと席についたのも束の間。

「小河さーん！ちょっとちょっと。」

課長の呑気な声に視線を向ければ、その隣には川田さんが立っていて。

そう言えば、この課長は川田さんと入れ違いに来た人だから、当然、あたし達の昔のことは知らないんだ…

と、これから待ち受けているであろう、空気の読めない課長の発言に心構えをした。


おいでおいでと手招きする脂ぎった顔に出来るだけ視線を集中させながら、しぶしぶ出向けば、

「対策室の方、今日お休み多くて人が足りないから、手伝って欲しいんだって。
頼んだよ。
新規の案件は粕谷に振っていいから〜。」

お前が行けよ！

誰よりも暇だろ！

課長のピカピカの机を見ながら本気でそう言ってやりたかったけど、勿論我慢した。

ハイ、社会人デスカラ。


「小河さん、月曜の忙しいとこ、ごめん！
粕谷には俺から説明してあるから、すぐきてもらっていいかな？」

申し訳なさそうに、でもあくまでも爽やかな笑顔でそう言う川田さんを見ながら、

あぁ、相変わらず上手いな。

と彼の人たらしっぷりに感心する。


朝、一瞬見せたあたしに対する気まずさはどこにいってしまったのだろう。

本当に、何もなかったかのような彼の態度。

そこに苛立ちを感じるあたしは、やっぱりまだ立ち止まっている？



粕谷くんに軽い引継ぎし、すぐに川田さんと共に７階の対策室へ向かった。

背中に粕谷くんの、物言いたげな視線を感じながら。



誰もいないエレベーターに乗り込み、ボタンを押そうとしたあたしの手の上。

重ねられた手。

まだ覚えている、その感触、体温。



だけど、


あたしの記憶の中の彼の手には無かったな…


ーーその薬指のシンプルな指輪。

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