全力疾走

27 ページ27

「ーー今日は帰さへんよ。」


なんて言葉は、当然ながらあたしの妄想で終わり、日付をまたぐ頃にはきちんとマンションの前まで送り届けてくれた。


「お茶でも飲んでいきますか？」

なんていかにもな言葉も、妄想の中でしか言えるはずもなく。


「ドライブ、楽しかったです。

ーーおやすみなさい。」

当たり障りのない挨拶が精一杯。

「おん、俺も楽しかった。
付き合ってくれてありがとうな。

じゃ、またな。」

優しく頭に触れられた手のひらの温もりだけで、

“またな”という、次に繋がるその言葉だけで、

もう十二分に満足してしまっているくらいだから。


あたしがエントランスに入るのを見届けてすぐに発進した車を、ガラス越しに見送った。


多分、きっと。

まだあたしは、あの人の中でオトモダチの一人に過ぎなくて。

だけど、きっと。

カノジョのポジションが空いた分、少しだけ、ほんの一歩たけかもしれないけれど、前に進んだと思う。


自惚れかな…

でも、多少の自惚れと思い込みがなきゃ、恋愛なんてできないし。


お風呂上がり、鏡に映った顔は、昨日よりのもっと潤っている気がした。

これぞアドレナリン効果か。




ココロもカラダもホカホカなまま布団に潜り込もうと、携帯を手にしてベッドに向かうと、未読通知が１つ。

ニシキドさんかな？

なんてウキウキしながら開いた自分を、心の底から後悔した…


ああ、このまま、幸せ気分のままで眠りにつけばよかったのに。




『来週、川田さんが応援に来るらしいです』


粕谷くんらしい、簡潔で分かりやすいメッセージ。


分かってるよ、キミに悪気がない事は。

むしろ、あたしを心配してくれてるんだってことも、ちゃんと分かってる。




でも…


できれば日曜日の夜にでも知らせて欲しかったな…



ベッドに腰掛けたま、いつの間にか冷えてしまったカラダ。


携帯を見つめたまま、熱を下げてしまったココロ。


２日間、今日のトキメキを噛み締めながら週末を楽しむはずだったのに…



ただただ憂鬱な月曜日に向かって、悶々と２日間を過ごした。



ほら、やっぱり、

あたしの人生って、甘味少なめがお似合いなんだな…

28→←26

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す