全力疾走

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大通りから一本脇に入った、人通りの少ないコインパーキングに到着すると、送られてきた写真と同じだと思われる車が停まっていた。

イマイチ掴めない状況に加えて、結構ガッツリめにスモークの貼られた、あからさまに高そうなその車にいきなり近づく度胸はなかったので、

『着きました』

とりあえずメッセージを送ると、運転席のドアが開いて、黒づくめの男の人が出てきた。


「はよ、乗って」

そう促されるままに助手席に乗ってから気付いた。

「助手席、まずくないですか？！」

週刊誌？スポーツ紙？

よくわかんないけど、撮られたらまずいでしょう。

「そんなん気にしとったら、出掛けられへんわ。
俺らだって、遊びに行ったり飯食いに行ったりするんは当たり前やん。

ま、気になるんやったら、これ被っとき。」

そう言って、彼の被っていた黒いキャップを頭に乗せられた。

その拍子に少し落ちてきた前髪とか、

ニヤリと笑ったその笑顔とか、

「コレもいる？」なんてメガネを外して覗き込んでくるちょっと甘えたようなタレ目とか…


ーーああ。

車内が暗くて良かった。


絶対、今、あたしの顔、ヤバい…


何かが漏れ出しそうになるのを堪えて口元を手で隠しながら、差し出された伊達メガネを掛けたのは、

第三者の視線を避けるためじゃなくて。

隣にいる距離感のおかしい芸能人の視線を避けるため。

「お、眼鏡、似合うやん。」

そう言う声も、

更に距離を詰めて覗き込んでくる目も、

なんか、いつもより、甘くないですか？


思い上がり？

勘違い？

多分、絶対にそうなんだけど。

でも思わず都合よく勘違いしそうになってしまうのは、自らの手でスイッチを入れてしまったせいだろうか。




どうしよう…


ニシキドさんが可愛い過ぎる…



嗚呼、おそるべし、恋愛スイッチ…

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