時計の針は戻せませんが（緑）

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「ーーオトモダチ、やめてええから、絶交は撤回してや…」

覆い被さるようにあたしを抱きしめたまま、つむじに息を吹きかけるみたい、ボソボソと小さく呟く忠義の顔は見えなくて。

何を思っているのか分からないし、

そもそも、

「ーー意味わかんないんだけど…？」

鼻にかかって普段より丸みを帯びた声なのに、びっくりする程トゲトゲした言葉。

あたし、ハリネズミみたいだな。

頑張って防御している自分が笑える。

傷付きたくない。

傷付けないで。

攻撃は最大の防御なの。

全身で忠義に伝えているあたしは、彼以上のヘタレなのかも。


「離れていかんで？

ーー側におってよ。」

ぎゅっと、身体に巻きつけられた腕に力が込められた。

小さな子どもが、眠れない夜にぬいぐるみを抱きしめてるみたいだ。

なんて、ぼんやり思う。

こんなトゲトゲのあたしを抱きしめたって、安心して眠れるわけないのに、馬鹿だね。


「側にいる理由なんて、ないでしょ？」

トモダチでもコイビトでもない。

あなたはアイドル、あたしはフツーのOL。

ほら、あたし達はどこにも交わるものがないのよ？


「ーー好きなのに、離れてくなんておかしいやん？」

あたしの顔を覗き込んできた、縋り付くような目。

アイドル辞めてもホストかヒモの道があるね。

大抵の女は、アンタにそんな顔されたらその背中に腕を回すと思うよ？


「ーーうん、悔しいけど、好きだよ？」

諦めて、いけるところまで、このズルい男に捕まっていられたら、幸せなのかも？

でも、残念ながら、あたしはそういうのには向いていないんだよ。

「ーー好き、だから、もう側にはいられないんだよ？」

アンタのそういうところに、いちいち傷付いちゃうような面倒臭い女なんです。

だから、もう、離してよ。


でもやっぱり愛しさは誤魔化せないから、素直に認めてその潤んだ目にキスを贈る。

「ズルくて、ヘタレで、ぐーたらで、無駄にイケメンで、大食いで、料理が上手くて、酒癖悪くて、女癖も悪くて、笑顔が可愛くて、時々嘘みたいに優しくて…
でもやっぱりどこまでも自分勝手な忠義が、
どうしようもなく好きだった。」



こんなタイミングで、あたしに会いにくるのが危険だってことくらい、忠義だって分かってた筈で。

それでも会いにきちゃうくらい、忠義も寂しかった？

わざわざ今日を選んだのは、誕生日だからでしょう？




「会いにきてくれて、ありがとう。」



本当は、すごく嬉しかったんだよ。

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