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「地元の連れと会社立ち上げることにした。」
彼からそう告げられたのは、一年前のこと。
「――え…?」
彼の家でテレビを観ている最中、余りにも突然に告げられたそれは、既に決定形で、
「今月いっぱいで仕事辞めて、大阪帰る。
今の会社にはほんまに世話になったから、有休は消化せんとギリギリまで出社するから、引っ越しは30日になったわ。」
無駄のない彼の説明は、退職と引っ越しの日程だけでなく、
彼の決定を聞いたのは、勤め先よりも、不動産会社よりも、引っ越し業者よりも、
あたしの方が後だった、という残酷な現実をも教えてくれて、
「来週はあっちの部屋決めに行かなあかんし、引継ぎなんかで忙しなるから、あんまし会われへんくなると思うわ。」
それでも特に悪びれた風もなく、いつも通りのテンションで少し早口に話す彼に、
「――ちーちゃんは…?」
世界がぐるぐると逆回転し始めそうな勢いで混乱しながらも、やっと絞り出した言葉は、
重要と言えば重要だが、この場面において最優先とは言い難い、彼の愛猫の名前だった。
三年も付き合った彼女に、そんな大事なことを事後報告ってどういう事?!
しかもテレビ観ながら言う事?!
という、本来この場面に適しているであろう正当な文句がこの口から飛び出さなかったのは、
単純に、寝耳に水な彼の話を、全く現実のものとして受け止められていなかったから。
「ああ、ご時世やなぁ。
案外ペット可の物件も多いみたいやから、心配せんでも大丈夫やで?
まあ、ちいとばかし狭なっても、文句言うなや?」
呼んだ?とばかりにタイミングよくすり寄ってきたちーちゃんの顎下を綺麗な指先撫でる表情も、語りかけるその声も、やはりいつも通り穏やかで優しいものだった。
それをぼんやりと見ながら、少しずつ冷静になってきた頭が、頼んでもいないのにこの状況を整理しようとし始めて、
「――ここの合鍵、どうしたらいい…?」
少し整った頭は、意外と冷静な言葉を紡ぎ出していた。
――そう、この時のあたしは、子供の頃と同じように、距離とは絶対的な障害だと思っていた。
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まめまめた(プロフ) - まゆまゆさん» まゆまゆさん☆せっかくリクエストいただいたのに随分遅くなってしまってすみません(;´д`)読んでいただけてヨカッタ〜( ´∀`) (2020年5月31日 11時) (レス) id: a925dd1186 (このIDを非表示/違反報告)
まゆまゆ(プロフ) - リクエストにお応えしてくれてありがとうございました。此方に感想失礼します。読みました。とてもお話が面白くてお二人の様子が可愛らしくてお話の中だけど幸せになって欲しいと思ってしまいました。これからも頑張ってくださいね。 (2020年5月30日 1時) (レス) id: 381d27e867 (このIDを非表示/違反報告)
まめまめた(プロフ) - 美波さん» 美波さん☆コメントありがとうございます!幸福論はいつもとテイストが違いシリアス強めな作品ですが、私自身も気に入っているお話なので、大好きを頂けてとっても嬉しいです( ´∀`) (2020年5月22日 10時) (レス) id: a925dd1186 (このIDを非表示/違反報告)
まめまめた(プロフ) - まゆまゆさん» まゆまゆさん☆お返事遅くなってすみません(>人<;)横山君のお話、実は私も書きたかったのですが、もう話数がいっぱいでアップ出来ず…かと言って別の短編集に突っ込むのもいきなり過ぎるし…と困っております(;´д`)どこかに置き場が出来たら書いてみますね! (2020年5月22日 10時) (レス) id: a925dd1186 (このIDを非表示/違反報告)
美波(プロフ) - 初めまして。いつも作者さんの作品たくさん読ませていただいてたのですが、初めてコメントします!好きなお話沢山あるんですけど、このコトノハの幸福論が本当に大好きで何回も読み直してて、伝えずにはいられなくなりコメントさせてもらいました^ ^ (2020年5月22日 2時) (レス) id: 2630bc6126 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まめまめた | 作成日時:2019年12月14日 17時