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店を出て、ただひたすらに歩を進めた。
立ち止まったら、何かが溢れ出しそうだった。
ただ無心に歩いて、もう少しで駅という所で背中に飛んできた声。
「っ、Aっ、」
無視するわけにもいかず、ゆっくりと足を止めた。
だけどすぐには振り向くことが出来なかった。
その優しい声はあたしを安堵させたのに、
だけど胸のどこかが大きく軋む音がした。
ただそれを、認めたくはなかった。
「ーー章大…」
一呼吸置いて、ゆっくりと振り向いたあたしに、章大は泣きそうな顔をして、だけど優しく微笑んだ。
「ごめん…やっぱしこんな風に会わせるべきやなかったな…」
深く頭を下げてそう言う章大を責める気などない。
元々あたし達は、章大に甘え過ぎなのだ。
「章大は、ただ巻き込まれただけでしょ。
こっちこそ、ごめんね。
ーーって、あたしは悪くないか!
悪いのは全部信五だしっ!」
章大の隣に並んで、彼の背中をポンポンと叩く。
その肩がまだ上下していて、章大がかなり頑張って追い掛けてきてくれたんだと分かるから、自然と笑顔が溢れるし、
「そやな、俺らやなくて信ちゃんの大暴投や。
ようもあんな豪速球であないな的外れなとこに球投げられるわ。」
章大もニヒッと笑ってくれるから、重苦しかった空気はふんわりと丸くなる。
家まで送ると言う章大の親切すぎる申し出を受けたのは、きっとまだもう少し、彼の優しさに触れていたかったから。
二人で黙って電車に揺られていると、段々体の力が抜けてきて、
意地とかプライドとか去勢とか、そういう荷物を下ろしたくなって、
気付けば自然と言葉が溢れてきた。
「ーー信五、いつ帰って来たの?」
「…一昨日。
仕事終わって家帰ったら、玄関の前に可愛らしく膝抱えて座っとった。」
「ーー何それ、こわっ…」
30過ぎのオッサンがストーカーばりに玄関で待ち構えている姿など想像したくないが、可愛く膝を抱える信五の姿が勝手に浮かんでしまうから腹立たしい。
「…連絡、取り合ってたんだ?」
「おん。
それやのに、帰ってくる時は謎のサプライズって何やねんな?」
怒っているのか、楽しんでいるのか。
ふふふ、と笑いながら言う章大は、きっと信五のそんなところも好きなんだろうな、と思う。
「確かに、あの人意外とサプライズ好きよね。」
そう言いながら懐かしい思い出を蘇らせてしまうあたしも、
信五のそんなところが好きだった。
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さくらもち - 更新されていた当時からこっそり読ませて頂いていました。久しぶりに読んでみて、やっぱりまめまめたさんの作る世界が大好きで、ずっと1番です。もうここにはいらっしゃらないかもしれませんが、どうか届きますように。 (3月7日 2時) (レス) id: 5f7a39fac4 (このIDを非表示/違反報告)
まめまめた(プロフ) - ブルームーンさん» ブルームーンさん☆今回も最後までお付き合いありがとうございます!こんな贅沢な眠れない夜なら大歓迎ですよね(//∇//)続き、やっぱり気になります?今妄想中のお話が書けたら、続編頑張ってみようかなぁ… (2021年6月4日 19時) (レス) id: a925dd1186 (このIDを非表示/違反報告)
ブルームーン(プロフ) - 飲みの帰りに大倉くんに焼きモチ焼かれて、安田くんに1日一人占め宣言されて、横山くんがゲロ甘…。こんな夜過ごしたらバチ当たるよね!バチ当たりたい!!続編、何卒m(__)m (2021年6月4日 2時) (レス) id: d5063d2f63 (このIDを非表示/違反報告)
まめまめた(プロフ) - ブルームーンさん» ブルームーンさん☆新しいアルバムの特典とかにどうですか?!笑 お願いします、インフィニティさん(^人^) (2021年1月25日 13時) (レス) id: a925dd1186 (このIDを非表示/違反報告)
ブルームーン(プロフ) - え…この乙女ゲーム、どこでダウンロードできますか?(笑) (2021年1月23日 2時) (レス) id: a475b78d7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まめまめた | 作成日時:2020年9月9日 13時