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しかしそんな謝罪はパーティーから抜けられるという圧倒的な歓喜の壁の所為で、身体には届かなかった。
「ふう……。」
冷や汗が垂れる。ようやく抜け出せた。
と、彼は先程までの耳を貫く様な騒々しさに比べればまだ静かなロビーで、静かに息を吐く。さて、
このままどうしようか。部屋に戻って日記を書くのが最適だなと彼は思ったが、あの機械技師もやや気になる。あのパーティーに参加しなかったのは体調が悪いからという至って単純な理由。しかし彼には、それがどうにも彼女の口から出任せを吐いたようにしか感じられなかった。
「あ……。」
そんな時である、石仏の機械技師が現れたのは。何処かから歩いて来た彼女は、扉の目の前に立っている彼を見ると、その無感情を取り払い、パッと明るい笑顔になって
「イソップじゃん!どうしたの?今君の歓迎会をやっているのに!」
イソップの元に駆け寄ると、トレイシーは彼の右手を掴んで「ほら、行こうよ!」と引っ張る。
しかし彼女の顔には、今の彼と全く同じ様に見える汗が目立っていて、推奨する割に引っ張る力は随分と弱い。虚弱体質とは言え、普段のトレイシーの力は決して弱くないと誰かから彼は聞いたはずなのに。
「……レズニックさん。」
「ん、何?」
静かな呼び掛けに、トレイシーは笑いながら、でも冷や汗を垂らして首を傾げる。
「体調が悪いって、嘘でしょう。」
それはイソップにしては物珍しい、明らかな確信。トレイシーは一瞬だけ引っ張るのを辞めた。
「そんな嘘、僕は付かないってば!本当に体調が悪かったんだよ。でも今回復したから、パーティーに参加しようとー」
「冷や汗、垂れてますよ。」
その言葉を聞いた途端、トレイシーは手を離して俯く。離れた二人の手は重力に従い、だらんと垂れて暇になった。
二人の間に沈黙が流れるが、扉一枚だけではあの騒々しさは抑えきれず、変に可笑しな空気が流れる。
先に沈黙を破ったのは、トレイシーだった。
「…深夜の食堂は、誰も居なくて作業しやすいですよ。おあいにく様、近くの部屋の二人は夜ぐっすりと眠るので、気付く事はありません。明日にでも…..使ってみてください。きっと棺を作る必要があるでしょうから。…….私は明日…使いません。」
それはイソップが確かめたいことであった。が、それ以前に、まさに真逆の性格。こんなにも静かで大人しく喋るトレイシーに、彼はまた疑問を抱いた。
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ちゃば - 申し訳御座いません。突然ログインが切れてしまったので一旦投稿を中止します (2022年1月14日 22時) (レス) id: 94d93d2c55 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃば(プロフ) - 百日草さん» コメント有難う御座います。ただの未熟者ですがこれからも精一杯頑張らさせて頂きます。 (2021年12月30日 16時) (レス) id: 94d93d2c55 (このIDを非表示/違反報告)
百日草 - 更新頑張って下さい。応援しております。 (2021年12月30日 15時) (レス) @page7 id: 46e6433036 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちゃば | 作成日時:2021年12月30日 12時