第五十話 煮えたぎる殺意 ページ2
.
「…ねえ、芥川君。どうして君は彼女を傷つけているんだい?」
いつも通りの柔らかい口調。
けれど声色も雰囲気も、そんなものとは無縁だ。ただ凍てつくような恐怖だけがこの空間を支配している。
恐ろしい程に冷たいその声は、誰もが身震いする程に恐怖を煽るものだ。
表情も抜け落ちたように無表情で、彼は確実に怒っている。それも今までにない程に。
吹っ飛ばされかなり重症の芥川くんだって、それをちゃんと分かっていた。
だって尋常じゃない程に痛い筈なのに、治くんを見上げるその瞳には途方もない恐怖の念しか宿っていないから。
でもそれ程に今の治くんは恐いという事だ。
このままじゃ芥川くんの命が危ういと思い、私は痛む傷を必死に抑え込んで口を開いた。
「…っ、治く…ん…」
治くんを呼び掛ける為に出したその声は自分で思っていたよりも小さくて、あまりにも弱々しい。
正直届いたのか心配なくらいだ。
けれどそれも杞憂なようで、治くんはピクリと肩を揺らした。そして此方を振り返って踏み寄ってくる。
暗いせいであまり表情は見えないものの、治くんは私の目の前に来ると膝を付いた。
そしてそのまま私を抱き締める。
頭を治くんの胸板に押し付けられるものの、その抱き締め方は傷を労るように優しいものだった。
フワリと香った治くんの匂いに安心感を覚える。
「…ごめんね、A」
耳許で小さくそう言ったその声は、先程とは別人のように優しく温かさを感じた。
いつもの治くんだ。それにどうしようもなく安堵して、無性に泣きたくなった。
.
1432人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
葉桜 桜 - 凄く面白いです!1日にリメイク前の物まで読んで、お話が小説の神様みたいです!更新、楽しみに待ってます!! (2023年5月2日 14時) (レス) @page19 id: e6215ef735 (このIDを非表示/違反報告)
わけめ - ついつい一気に読んでしまいました!更新、楽しみに待ってます! (2022年11月19日 23時) (レス) @page19 id: 979aaf8679 (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - 凄く面白いです! 無理しない程度に頑張ってください! 更新待ってます! (2022年7月14日 15時) (レス) @page19 id: 50f3e04b49 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 続きを楽しみにしてます!! (2021年5月2日 15時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
はーちゃん - いや、神か?????面白かったです! (2020年11月19日 16時) (レス) id: 3ad67a8a12 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:水瀬月鏡 x他1人 | 作成日時:2019年7月21日 17時