No.314 ページ6
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「凄い凄い!流石しずく、オテガラしずく!」と、けいとくんが目を輝かせて跳ね回る。しずくちゃんは「えへへ」と嬉しそうに笑うと、「どうでした?葵センパイ!」と振り返ってピースサインをした。
「どうでしたも何も、なんであいつらは他人の借りた本を盗んでいたのか分からないままだ。」
「ああ、カンタンなことですよ。」としずくちゃんは言う。
「あの男の子たちは、ボクの友達をいじめていたんです。物を盗ったり壊したり、小学生の頃からだって言ってました。だからその子が借りた本を勝手に盗って隠すことで、返却できないように嫌がらせをしたかったんだと思います。」
「最初から知ってたの?」と私は涼しい笑顔を浮かべているしずくちゃんに聞いた。
「まあ、はい!ごめんなさい!今日氏橋センパイを依頼と言って図書室に呼び出したのは、彼らをボクの代わりに捕まえて欲しかったからです。」
「生徒会長さんだし、上手くやってくれるかなと思って!」としずくちゃんは舌を出してあざとく上目遣いをする。目の前の小さな彼女のことが、とても狂気的に見えた。
「で、でも、知ってたのなら最初からそう言えば___」
「そうですよね…すみません、ボク一人じゃ怖くて、センパイを頼っちゃいました。」
あれ?
しずくちゃんはさっきまでのギラギラとした表情を完全にひっくり返して、寂しげに微笑みながらしょんぼりと肩を落とす。
私はただ、本当のことを初めから教えてくれていたら、そうちゃんの誤解ももっと早く解けたんじゃないかなって、そう思っただけ。
でも、もうそんなこと言えるような雰囲気ではない。
「葵センパイも協力してくださってありがとうございます!」
「いや、俺は何も。」とすましている葵。しずくちゃんはまたはにかんで、「ボクもセンパイ達みたいに、誰かの役に立てたかな!」と両手を組み合わせた。
「そうだよ!その友達は絶対、しずくのことヒーローだって思ってる!」
けいとくんがしずくちゃんの肩を揺する。「ありがとう、けいと!」としずくちゃんもけいとくんの頭を撫でた。
ヒーロー…か。
私もそんなふうに思われてみたい。
「それだけです!それじゃ、ボクは帰ります!」
「ばいばい、けいと!」と彼に手を振って、しずくちゃんは廊下をぱたぱたと駆けていった。
なんだか蜃気楼みたいに、しずくちゃんの足元がゆらゆら揺らめいているように見えた。
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えりんぎ※息を吸う(プロフ) - そちゃさん» 今回は出すつもりのなかった波瀬兄弟まで首突っ込んできたので畑中と絢瀬妹の性格について色濃くピックアップされた回になりました。感想いつもありがとうございます。励みになります。 (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 5e55bdde31 (このIDを非表示/違反報告)
そちゃ - まさかのしーちゃん回でこれでやっとみんな救われたのかなって...。しずくと修也くんの関係、歪んでて最高です。次回の修学旅行編楽しみにしてます! (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2023年8月2日 23時