枝 ページ49
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その後、恵林は無事しずくを中村家まで送り届けた。出迎えた中村紫苑は眉間をつまみ、「やっぱり…絶対来ると思ってたんだよな〜」と呆れ顔をする。
しずくはあっさり恵林から離れると、「怪我しました!痛いです!」と中村のTシャツを引っ張って訴えた。
恵林はハッとしてしずくを見つめた。しずくはむっと唇を閉じて、真剣な様子で中村を見上げる。彼の返答をどきどきと胸を鳴らしながら待っていた。
「_____うわ、痛そ…待ってね、今消毒してあげる」
中村は特に何も気にすることなくそう言って廊下の先へ消えていった。しずくはバッと振り返って満面の笑みを見せる。その表情は安堵のような、喜びが一面に表れたものだった。
「だから言ったじゃん、何もしなくたってみんなしずくちゃんのこと大切にしてくれるよ!」
恵林もしずくに向かってニカッと笑い返す。するとしずくはぱたぱたと戻ってきて、彼女らしくないぎこちなさで恵林をぎゅっと抱きしめた。
「恵林センパイ、ありがとうございました。」
恵林は「えっ!えー!」と困惑しながらもしずくを抱き締め返してみる。少し気恥しい。
しばらくすると救急箱を持ってきた修也が現れて、しずくは恵林に手を振ってお別れをした。送っていくかと聞かれたが、恵林は断ってひとりで夜道を歩く。
やはりしずくは嵐のような少女だ。
色んな出会いや事件、感情をぐちゃぐちゃにして荒風に乗せて吹き付けてくる。でもきっとその中心は静かで、少しの波も立っていないだろう。
自分を取り巻く外側はやけに賑やかに見えているのに、足元だけが冷たいのは寂しいものだ。
たくさんの人に好かれていても、たった一人の特別な存在になることは難しい。
自分が存在することを大勢の人に認めてもらいたいと願ってきた恵林にとって、しずくは真逆の存在だ。恵林の憧れは、誰とでも仲良くなれるクラスメイト。けれどそれを満たしているしずくが望むものは、他の誰とも違う特別な存在。
「反対ならよかったのにな」と、恵林は呟いた。そうしたら二人は丁度よく、互いの願いを叶えられるだろう。
生ぬるい風の吹く夜更けだった。苦しくはないが胸が詰まる。恵林は夢現な意識のまま、仄暗い街頭の下を進んだ。
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えりんぎ※息を吸う(プロフ) - そちゃさん» 今回は出すつもりのなかった波瀬兄弟まで首突っ込んできたので畑中と絢瀬妹の性格について色濃くピックアップされた回になりました。感想いつもありがとうございます。励みになります。 (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 5e55bdde31 (このIDを非表示/違反報告)
そちゃ - まさかのしーちゃん回でこれでやっとみんな救われたのかなって...。しずくと修也くんの関係、歪んでて最高です。次回の修学旅行編楽しみにしてます! (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2023年8月2日 23時