検索窓
今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:611 hit

No.348 ページ43

.

「アレアレ?恵林センパイまだですか?」

「へ?まだって何が?」

恵林はこくんと息を飲む。

「けいとの話では、二人きりになると強引に腕を引いて秘密の場所へ連れて行ってくれると聞きましたが…」

何か期待しているようだ。しずくはニタリと笑みを浮かべて恵林に詰め寄ると、その首裏に腕を回して顔を覗き込んできた。

恵林は必死に頭を回転させる。けいとの話とは一体なんのことだろうと思い出しているのだ。二人きりになった途端にどこかへ連れ出すなんて、恵林はそんなロマンチストではない。

「ズルいですよ〜けいとばかり可愛がって。ボクとも仲良くしてくださいよ、恵林センパァイ……」

どう見たって仲良くしたいと思っている顔ではない。どちらかというと血走った目つきで獲物を狙う猛獣のようだ。恵林は冷や汗を額に浮かべてすっかり恐ろしくなってしまった。あと少しでも近づけば喰われると確信した時「あ、あ、あー!」と、突然稲妻が脳内に走って記憶が蘇った。

「い、行こう!行きましょう!!」

けいとの話通り、恵林はしずくの腕を強引に掴んで家の鍵もかけることなくマンションの廊下を駆け出した。しずくは大層喜んだ様子できゃっきゃっとはしゃぎだす。

……どうやら、そう簡単に一日は終わってくれないみたいだ。延長戦のスタートを告げる笛の音が、どこからか聞こえたようなきがした。



________




目的地は秘密基地のすぐ側にある橋だ。下には緩やかで広い川が流れていて、以前真夜中にけいとを連れ出して訪れたことがある。

きっとそのことを言っているのだろうと、恵林は思ったのだ。

「こ、ここなんだけど合ってるかな…」と、恐る恐る恵林は聞いた。もし間違ったら今度は本当に食い殺されてしまうかもしれない。

しずくは月夜の下に広がる青い田んぼを眺めた。夏休みが置いていってしまった忘れ物のようだ。まだまだ青く、艶やかに風に靡いている。

「…ボクは答えを知りません。が、ここは嫌いじゃありません。」

「そっか、よかった」と、胸を撫で下ろし、恵林は田んぼのあぜ道を進んでいった。しずくはおずおずとついていく。

「ここは私の大好きな場所。晩餐会と同じくらい、思い出の詰まった場所!」

パタパタと駆け出して夜の中へ飛び込むように行ってしまう恵林。「待ってください!」としずくは呼びかけた。



.

No.349→←雷星羅輝、霆は大河で辻になる。



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (5 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
15人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

えりんぎ※息を吸う(プロフ) - そちゃさん» 今回は出すつもりのなかった波瀬兄弟まで首突っ込んできたので畑中と絢瀬妹の性格について色濃くピックアップされた回になりました。感想いつもありがとうございます。励みになります。 (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 5e55bdde31 (このIDを非表示/違反報告)
そちゃ - まさかのしーちゃん回でこれでやっとみんな救われたのかなって...。しずくと修也くんの関係、歪んでて最高です。次回の修学旅行編楽しみにしてます! (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2023年8月2日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。