No.313 ページ5
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「……全部貸出中になってる。」
葵はパソコンを眺めてぽつんと呟いた。
「ほら!盗んでなんかなかったでしょ?先輩俺らに濡れ衣着せたんすよ!謝ってくださいよ」
「ハァ!?そんなわけないッ!なら何故本を持ち出して逃げようとしたんだ!!」
「氏橋、あんた…………」と、美江の顔が更に引き攣っていく。そうちゃんは顔面蒼白になって「宮野違う!俺は確かに!!」と声を張り上げた。
「氏橋が勝手に勘違いしたんじゃないの」
葵までもがそう言ってパソコンを閉じるので、そうちゃんは急に泣きそうになって「そんな…」と言葉を失ってしまった。
「……ねえ、なんで笑ってるの?」
私は居てもたってもいられなくて、勇気を出して男の子たちにそう聞いた。
「はい?笑ってないッスけど」
うっ…怖い。一年とはいえ、私より体も断然大きく、おっきな両目がギョロギョロ私を見下ろしている。
「そうかな、笑ってるように見えたから…。何か隠し事でもしてるんじゃないの?」
「そーだそーだ」と小声で応戦し出したけいとくんに、男の子は「うるせ!」と睨みを効かせた。
「畑中さん、証拠が無い以上どうしようもないよ。確かに怪しいけど、これ以上は何もできない。」
葵のセリフに、「どこも怪しくないっつーの」と呆れたように愚痴を零す一年生たち。そんな中、しずくちゃんが「あ、そうだ!」と突然パチンと手を叩いた。
「葵センパイ、その本の貸出人って誰になってますー?」
しずくちゃんはにこにこ笑いながらカウンターのそばまでやってくると、身を乗り出して向こう側にいる葵のパソコンを覗く。葵は「一年A組の……女子」と言いながらハッと何かに気づいたように顔を上げた。
「あれ〜!A組の女子ってボクのクラスメイトだ!でもこの人たちはけいとと同じB組でしょう?それに男の子だし。葵センパイ、これってどういうことですかねぇ」
「確かにおかしいわね!」と美江も閃いたように同調する。
私は咄嗟に男の子たちの顔を見た。冷や汗タラタラで口をパクパクしている!絶対黒だ、黒確定!
「おい、説明してもらうぞ!何故お前らは他クラスの女子の借りた本を持っていたんだ!」
「に_____」
「逃げるぞ!!!」と男の子たちは目配せをして駆け出した。「あ!!!コラ!!廊下は走るなーッ!!」と、今ソコ!?ってことで怒りながらそうちゃんが追いかける。
「アイツの足じゃ取り逃がすわね」と、その背中を呆れた様子で美江がついて行った。
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えりんぎ※息を吸う(プロフ) - そちゃさん» 今回は出すつもりのなかった波瀬兄弟まで首突っ込んできたので畑中と絢瀬妹の性格について色濃くピックアップされた回になりました。感想いつもありがとうございます。励みになります。 (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 5e55bdde31 (このIDを非表示/違反報告)
そちゃ - まさかのしーちゃん回でこれでやっとみんな救われたのかなって...。しずくと修也くんの関係、歪んでて最高です。次回の修学旅行編楽しみにしてます! (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2023年8月2日 23時