検索窓
今日:17 hit、昨日:2 hit、合計:627 hit

No.346 ページ40

.


「遅ーーいっ!」

校門前に仁王立ちで腕を組んだ姿が見えて、中村は初め美江かと思ったが、よく見れば赤毛だ。

「三城ちゃ〜ん」と中村は背中に恵林がいることも忘れて自転車を漕ぎながら両手を離す。「うわわわっ!」と転げ落ちそうになった恵林。中村も体制を崩して倒れてしまいそうになったが、有り得ない速さで走ってきた和葉により間一髪で事故を塞ぐことができた。

「あっぶなーっ!しーくん!!しっかりしてよ!」と冷や汗を拭う和葉。拭いながら目をぱちくりさせる。膝の傷など気にする余裕もなかったが、最高記録を更新するくらいには速く走れたような気がした。「あれ?あたしリハビリ成功?」と夕焼けに向かって問いかける。

「あはっ、俺としたことが〜」と笑った中村の後ろで「うわー!」と結局恵林は落っこちてしまった。

「恵林!!」と昇降口を出てきた顔馴染みのメンバーたちが駆け寄る。アスファルトに転がった恵林は自分の顔を覗き込む友人に向けて「みんな…いつもありがとう…」と、先程思い立った願いを一つ叶えた。

「お前ッマジでやめろ!!修学旅行三日前なんだぞ!!俺の胃を虐めないでくれッ!」と氏橋が腹を抱えてしゃがみこむ。実行委員長はお疲れのようだ。

「ごめんごめん…いてて…」

「恵林センパイ」と大きな生徒たちを掻き分けて絢瀬が顔を出す。彼は「しずくは?」とまだ寝転んだままの恵林に聞いた。

「そりゃもう、バッチグーだよ!」

ふにゃりと笑って親指を立てて見せる恵林。絢瀬はホッと胸を撫で下ろすと、「ありがとうございました」と珍しく素直に頭を下げた。

「やっぱり、僕が行かなくてよかったです」

そう言って寂しそうに笑う絢瀬。恵林は両手を伸ばして、絢瀬の頬を挟んだ。

「しずくちゃんのこと甘やかしてあげられるの、けいとくんだけだよ。」

恵林がやけにまじまじと見つめてくるもので絢瀬は面食らったように固まった。きゅっと喉が締まるような痛みを感じて、唇を噛み締める。そして、ふいっと顔を背けた。

「ま、まあ。僕はお兄ちゃんなので当たり前です。言われなくたって分かってます!」

「ええ、急にツンデレモード入るじゃん…」と、恵林は悲惨な顔をする。それから「よっこらせ」っと体を起こして、カラフルなお菓子でも見るかのような瞳で再度友人の顔を眺めた。

「恵林…」と、最後に、一層不安げな里奈と目が合った。



.

No.347→←No.345



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (5 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
15人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

えりんぎ※息を吸う(プロフ) - そちゃさん» 今回は出すつもりのなかった波瀬兄弟まで首突っ込んできたので畑中と絢瀬妹の性格について色濃くピックアップされた回になりました。感想いつもありがとうございます。励みになります。 (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 5e55bdde31 (このIDを非表示/違反報告)
そちゃ - まさかのしーちゃん回でこれでやっとみんな救われたのかなって...。しずくと修也くんの関係、歪んでて最高です。次回の修学旅行編楽しみにしてます! (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2023年8月2日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。