被告人、絢瀬妹! ページ28
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残暑は風に運ばれて、赤い自転車の横を吹き抜ける。
「それで、しーちゃんはどこにいるって?」
中村はペダルを漕ぎながら、後ろに座っている恵林に聞いた。しーちゃんとは、修也がつけたしずくのニックネームである。
「第二公園!手紙にはそう書いてあったはず!」
「了解、飛ばすよ〜!」
「うん!」と力強く頷いて、恵林は荷台の細い鉄枠に掴まった。今思えば鬼ごっこやドッヂボール、自転車の二人乗りの仕方さえもがあの頃の友人に教わったことだ。田んぼの遊び方、川の渡り方、橋から飛び降りる度胸試し…全部全部、懐かしい彼らの記憶の全て。
恵林を乗せた自転車は、その記憶を辿るようにして進んでいく。柔らかい夏の夕暮れの匂いも混ざって、また目頭が熱くなる。ぎゅっと瞼を瞑って、寂しい思い出をしまいこんだ。
懐かしくたって、もう戻らないのだ。
「居た」と、中村が前方に向かって声を上げた。
気づけば第二公園はすぐ目の前にまで迫っている。
「ゆ、ゆっくり行こう!」と、恵林は中村の自転車のスピードを落とす。二人はこっそり木の影から公園の様子を伺うことにした。
…大きな台形の滑り台の上に波瀬ライガの姿がある。そしてその下の砂場には、中心を挟んで向かい合うようにして絢瀬しずくと、数名の男子たちが睨み合っていた。
「えー、これより裁判を始める。証言者A、佐藤ー。」
「一昨日、俺のジャージのズボンが切り刻まれていた!こんなことするのお前しかいないだろ!どうしてくれるんだ!」
「被告人、絢瀬しずくー。」
「ハイ、ボクがやりました。何故なら佐藤くんは、ボクのお友達の本を盗んだからです!」
「裁判……?」と、太い木の後ろで恵林が怪訝そうな顔をして呟いた。「あの子が裁判官だね。」と、中村は滑り台の上に足を組んで座るライガを見上げる。
どうやらしずくは被告人として、数々の容疑を掛けられているらしい。
「証言者B、吉田ー。」と、気だるげなライガの声が伸びた。
「俺の上履きに画鋲ぶち込んで、その次の日にダンゴムシいれやがったのも絶対お前!間違いない!」
何やらえげつない事をされてる人がいる…と、恵林は証言者Bに哀れみの視線を向ける。しずくは至って普通に「ハイ、ボクですよ」と答えていて、容疑がかけられているどころか全部認めてばかりだ。
「参ったなあ、助けられる要素が今のところゼロなんだけど。」
中村は腰に手を当ててため息をつく。
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えりんぎ※息を吸う(プロフ) - そちゃさん» 今回は出すつもりのなかった波瀬兄弟まで首突っ込んできたので畑中と絢瀬妹の性格について色濃くピックアップされた回になりました。感想いつもありがとうございます。励みになります。 (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 5e55bdde31 (このIDを非表示/違反報告)
そちゃ - まさかのしーちゃん回でこれでやっとみんな救われたのかなって...。しずくと修也くんの関係、歪んでて最高です。次回の修学旅行編楽しみにしてます! (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2023年8月2日 23時