検索窓
今日:27 hit、昨日:2 hit、合計:637 hit

No.333 ページ26

.

「あと、オレが意地悪言うのはワザトだからいいの〜」と訳の分からないことを言うレイちゃん。

ぐるぐると頭が回る。胸焼けもしてきて、昔のことを封じた記憶の蓋がゆっくりと開きそうになっていた。

震える体から汗が吹き出て、次第に涙も滲んできて、「あ!また泣くぅ!」と、ここぞとばかりにレイちゃんはそれをいじってくる。

「毎回毎回泣いて助けてもらおうとすんなよ、泣いてないオレが悪くなるんだからさあ。」

「泣いてないもん」と私は顔を覆った。
こんなに悔しい思い、忘れてた。でもあの日々は、いつも感じてた。思い出してくる小さな感覚。喉から手が出るほど取り戻したかったあの日々の欠片が、痛いくらいに突き刺さってくる。

「も〜!」とレイちゃんは私の手を無理やり払い除けて、ジャージの袖でごしごしと目元を拭ってくれた。

「ユウちゃんもホノちゃんも、こんな奴に構うからいけないんだよ。」

ぶつくさ言いながら、レイちゃんは私の顔を拭き回す。憎んでも憎みきれない、これが彼の優しさだ。

その時だった。
「レイタロウくん」と、廊下の先から澄んだ声がした。私たちはそちらに顔を向ける。

「…リナちゃんじゃん。お久〜」

そこには里奈が立っていた。

「レイタロウくん、なにしてるの…」

里奈のその一言に、きゅっと記憶の蓋が閉まる音がする。レイちゃんはしばらく里奈と見つめあっていたが、「あーあ、だから言わんこっちゃない」と呟いて沈黙を割いた。

「ほらほら三号ちゃ〜ん、なんでも許してくれる優しい保護者が来ましたよ〜よかったねぇ。」とレイちゃんは最後の涙を無理やり拭って私から離れた。そして「それじゃ!ライガには適当に言っといてあげる!」と、逃げるようにしてその場から退散した。

「恵林!」と駆け寄ってくる里奈。
呪いが解かれたようにすとんと体の力が抜けた。

「里奈…私…」

「恵林、全然帰ってこないからみんな心配しているよ。」

「みんな…?」

「うん、みんな恵林を待っているよ。」

そっか…みんな待っててくれているんだ。

「よかった…みんなにまで嫌われたら、私もう…」

なんだか酷く疲れたような気がする。まるで思考が回らなくて、私はしゃがんでくれた里奈にすら顔を合わせることができなかった。

「ごめんね」

わけも分からず謝る私。里奈は寂しそうに私を呼んで、「誰も嫌いになんかならないよ」と、そっと寄り添ってくれた。




.

No.334→←No.332



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (5 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
15人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

えりんぎ※息を吸う(プロフ) - そちゃさん» 今回は出すつもりのなかった波瀬兄弟まで首突っ込んできたので畑中と絢瀬妹の性格について色濃くピックアップされた回になりました。感想いつもありがとうございます。励みになります。 (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 5e55bdde31 (このIDを非表示/違反報告)
そちゃ - まさかのしーちゃん回でこれでやっとみんな救われたのかなって...。しずくと修也くんの関係、歪んでて最高です。次回の修学旅行編楽しみにしてます! (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2023年8月2日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。