No.333 ページ26
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「あと、オレが意地悪言うのはワザトだからいいの〜」と訳の分からないことを言うレイちゃん。
ぐるぐると頭が回る。胸焼けもしてきて、昔のことを封じた記憶の蓋がゆっくりと開きそうになっていた。
震える体から汗が吹き出て、次第に涙も滲んできて、「あ!また泣くぅ!」と、ここぞとばかりにレイちゃんはそれをいじってくる。
「毎回毎回泣いて助けてもらおうとすんなよ、泣いてないオレが悪くなるんだからさあ。」
「泣いてないもん」と私は顔を覆った。
こんなに悔しい思い、忘れてた。でもあの日々は、いつも感じてた。思い出してくる小さな感覚。喉から手が出るほど取り戻したかったあの日々の欠片が、痛いくらいに突き刺さってくる。
「も〜!」とレイちゃんは私の手を無理やり払い除けて、ジャージの袖でごしごしと目元を拭ってくれた。
「ユウちゃんもホノちゃんも、こんな奴に構うからいけないんだよ。」
ぶつくさ言いながら、レイちゃんは私の顔を拭き回す。憎んでも憎みきれない、これが彼の優しさだ。
その時だった。
「レイタロウくん」と、廊下の先から澄んだ声がした。私たちはそちらに顔を向ける。
「…リナちゃんじゃん。お久〜」
そこには里奈が立っていた。
「レイタロウくん、なにしてるの…」
里奈のその一言に、きゅっと記憶の蓋が閉まる音がする。レイちゃんはしばらく里奈と見つめあっていたが、「あーあ、だから言わんこっちゃない」と呟いて沈黙を割いた。
「ほらほら三号ちゃ〜ん、なんでも許してくれる優しい保護者が来ましたよ〜よかったねぇ。」とレイちゃんは最後の涙を無理やり拭って私から離れた。そして「それじゃ!ライガには適当に言っといてあげる!」と、逃げるようにしてその場から退散した。
「恵林!」と駆け寄ってくる里奈。
呪いが解かれたようにすとんと体の力が抜けた。
「里奈…私…」
「恵林、全然帰ってこないからみんな心配しているよ。」
「みんな…?」
「うん、みんな恵林を待っているよ。」
そっか…みんな待っててくれているんだ。
「よかった…みんなにまで嫌われたら、私もう…」
なんだか酷く疲れたような気がする。まるで思考が回らなくて、私はしゃがんでくれた里奈にすら顔を合わせることができなかった。
「ごめんね」
わけも分からず謝る私。里奈は寂しそうに私を呼んで、「誰も嫌いになんかならないよ」と、そっと寄り添ってくれた。
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えりんぎ※息を吸う(プロフ) - そちゃさん» 今回は出すつもりのなかった波瀬兄弟まで首突っ込んできたので畑中と絢瀬妹の性格について色濃くピックアップされた回になりました。感想いつもありがとうございます。励みになります。 (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 5e55bdde31 (このIDを非表示/違反報告)
そちゃ - まさかのしーちゃん回でこれでやっとみんな救われたのかなって...。しずくと修也くんの関係、歪んでて最高です。次回の修学旅行編楽しみにしてます! (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2023年8月2日 23時