No.328 ページ21
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しーくんは一人だけ乾いた笑いを零し、嘲るようにして大柄な男子を見上げた。
「やめといたら?ただでさえデブで不細工なのに、まだマイナス要素見せびらかして、恥ずかしくないの?」
たちまち凍りつくステージの上。ド直球な悪口が一番ダメージが大きいのをしーくんは知っているんだろう…
「腫れ物同士でいがみ合ってる場合じゃないよ」と、とんでもなく遠い位置から催促が飛んでくる。カーテン裏に隠れている葵だ。
「誰が腫れ物だって?」と、全く笑っていない笑顔でしーくんがカーテンの方に振り返った。私もギリギリだったのにその距離でよく聞こえたな、地獄耳だ。
その時だった。私にへばりついていたレイちゃんが「良い…」と呟いて離れたのだ。
「ハッ、てかお前も別にイケメンじゃなくね?人のこと言う前に鏡見ろよ!」
「えっえっ、マジ意味不明なんですけどー!」と、調子の良いレイちゃんの声が響き渡る。
「中村くんの顔面は誰がどう見たって国宝級でしょうが、謝れ三流!」
出た!レイちゃんの虎の威を借る狐!
彼はいつでもより有利な方につく卑怯者なのだ!
急に裏切られた男子は「は!?お前どっちの味方だよ!」と焦り出す。無理もない、秒速寝返りだったもんな。
レイちゃんは揉み手でしーくんに擦り寄ると、「中村くんかっこいいねぇ!オレなんかとは比べものにならないよ〜う」と既に媚び売りモードに入っている。「え、何…気持ち悪…」と引き気味のしーくん。
「レイちゃんは強い男の子を見ると下僕になりたがるんだ」と、私は説明してあげた。
「うわ〜、男の下僕とかなんにもそそられない〜」
「そんなこと言わずにさあ、中村くんのためならいくらでも脱ぐよ、オレ…!」と見えない尻尾をフリフリしているレイちゃん。ノリはいい。
「連れ出せそうなら早くここを離れよう」と、また遠くから葵の声がした。もしや北見の産物を前にしてビビっている?
「あ…レイちゃん、ついてきてくれるんだよね…?」
一応確認を取る。「何言ってんの、オレがついてくのは中村くんです!」と、また長いベロが伸びた。
「俺は恵林についていくよ」
「じゃあ決まり!三号ちゃんについていきます!」
よかった…しーくんのおかげでスムーズに連れ出せた。レイちゃんは今まで一緒にいた男子たちには見向きもせずに体育館を出ていく。その間もずっとしーくんの腕に絡みついていて、彼は猫なで声で「中村くん、腕細いのにしっかりしてるねぇ」なんて褒めまくっていた。
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えりんぎ※息を吸う(プロフ) - そちゃさん» 今回は出すつもりのなかった波瀬兄弟まで首突っ込んできたので畑中と絢瀬妹の性格について色濃くピックアップされた回になりました。感想いつもありがとうございます。励みになります。 (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 5e55bdde31 (このIDを非表示/違反報告)
そちゃ - まさかのしーちゃん回でこれでやっとみんな救われたのかなって...。しずくと修也くんの関係、歪んでて最高です。次回の修学旅行編楽しみにしてます! (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2023年8月2日 23時