九月一日 ページ1
.
side school killer
とても長かったような、それでいて、呆気なく終わってしまったような。
ぼわぼわと耳の奥で誰かの声がする。ふと気づけば、私は体育館に並んだ沢山の椅子の一つに腰をかけ、分厚いしおりを開いてじっと前を見つめていた。
夏休みが終わってしまった。
みんなで見上げた花火も、私の誕生日も、ふとした時には遠い過去のことになってしまう。楽しかったからこそ寂しいと思えるのだから、心の中がぽっかり空洞になったって満足だと言えるのだけれど。
「当日は朝六時半に昇降口です。雨の場合は修武館に集合し、クラスごとに整列してください。その後大型バスで目的地まで向かいますが、途中のパーキングエリアでトイレ休憩を挟みます。」
ステージ前でマイクを握ったそうちゃんが、慣れた様子で修学旅行の当日予定について話している。彼は生徒会長である以前に学級委員長、そして学年代表なのだ。
九月一日の今日は、昨日よりほんのりと涼しい。体育館の四隅に佇む大きな扇風機の風だけでなく、外からもどこか温度の低い空気が入ってきているような気がした。
そんな生暖かい日の午後に、修学旅行についての学年合同説明会が体育館で行われていた。朝も夏休み明けの全校集会があったけど、よく覚えていないや。だって暖かくて心地が良くて、ずっと微睡んでいるんだもの。
「バスの中ではレクやお菓子タイムを設けてあります。帰りの分もしっかり余るように計算しながら食べること。それから＿＿＿＿」
私はそうちゃんの話をバックミュージック代わりに聞きながら、ちらりと端っこの入口付近を見る。そこにある大きな扇風機に一番近い席で、葵もまた退屈そうにしおりを眺めていた。
長い療養期間を経て、ようやく退院できたそうだ。それでもまだ体調を気遣って、ああして一番涼しい場所で安静にしている。一時はどうなることかと思ったが、登校日に間に合ってよかった。それに九月一日は一年のうちで一番憂鬱な日と言っても過言ではない。そんな日に隣が空席だったら、私の気持ちもきっと沈んでいたことだろう。
ああ、本当に葵が元気になってくれて良かった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 15人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
えりんぎ※息を吸う(プロフ) - そちゃさん» 今回は出すつもりのなかった波瀬兄弟まで首突っ込んできたので畑中と絢瀬妹の性格について色濃くピックアップされた回になりました。感想いつもありがとうございます。励みになります。 (8月5日 4時) (
レス) @page49 id: 5e55bdde31 (このIDを非表示/違反報告)
そちゃ - まさかのしーちゃん回でこれでやっとみんな救われたのかなって...。しずくと修也くんの関係、歪んでて最高です。次回の修学旅行編楽しみにしてます！ (8月5日 4時) (レス) @page49 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：えりんぎ※息を吸う | 作成日時：2023年8月2日 23時
