晩夏、眠りの神様にて。 ページ43
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____長い長い夏祭りの夜も、静かに幕を閉じて終わりを迎えた。
恵林は思う。桐ヶ谷がいれば、また少し世界は違って見えただろうか。
「一人でも欠けたら私は嫌だなあ…来年は一緒に行こうね」と、恵林は眠っている桐ヶ谷の顔を覗き込む。そういえば、枕の横に置いておいた手紙が無くなっている。
捨てられていないといいが。
夏祭りの翌日、恵林たちはまた集まって桐ヶ谷の見舞いにやって来ていた。晩夏ということもあり、日差しも幾分か優しくなったような気がする。
他の皆が院内にある一階の売店で昼食を買っている間にそそくさと桐ヶ谷の病室に入ってみたものの、彼の母親がやってこないか心配になる。
…とりあえず恵林は、桐ヶ谷がいない長い夏の思い出を、彼に語って聞かせることにした。
「でね、そうちゃんと美江がお付き合いを始めたんだって!恋人同士って何するのかよく分からないけど、二人には幸せになって欲しいなあ。」
きっと二人の話を知れば、桐ヶ谷は驚いてその話に食いついてくることだろう。恋バナを生きがいにしているくらいだから、身近にカップルができたとあらば後でも付けて回りそうだ。
「…告白って、好きって言うのかな?それとも、付き合ってくださいって言うのかな。それとも、ちゅ、チューとかするのかな…」
年頃だろうか。一年前と比べてそういった事が随分身近に感じられるようになった。誰が誰を好きだとか、誰と付き合ったとか。夢のまた夢だった遠い光景が、手を伸ばせば触れられる距離にある。
なんとなくシミュレーションがてら、「葵…」と恵林はベッドに手をつく。こうしてまじまじと彼の顔面を覗き込んでみると、艶やかな黒髪に死人のような顔色で…
「まるで、白雪姫みたいだ」と、常人なら歯の浮くような口説き文句がこぼれ落ちる。急に恥ずかしくなって「な、なーんて!」と誤魔化そうとした時、ばっちり桐ヶ谷と目が合った。
それはそれは長い間見つめ合い、お互いがぱちくりと瞬きを繰り返す。
…目が合った?
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そちゃ(プロフ) - おい氏橋!ついにやりやがったな...と、友達目線で読んでました。今回のお話はキャラのらしさ全開で読んでて楽しかったです。アインくん不穏でしたが彼ならきっと乗り越えられると願ってます....続き楽しみにしてます。 (2023年3月22日 21時) (レス) @page46 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2023年3月15日 23時