No.306 ページ41
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思わず大号泣する和葉。「お、お、大袈裟ね!」と美江も頬を染めてそっぽを向く。可哀想なことに経験の薄い恵林たちが何一つ理解出来ていない様子でぽかんとしていたので、「カップル爆誕だよ」と中村が耳打ちしてやった。
「カップル!?チューしたの!?」
「付き合ったってことか!?」
ようやく追いついた恵林とアインが騒ぎ出す。「チュ、チューだとッ!?」と何故か一番チェリーな反応を見せる氏橋に、「一生してやんないから!」と美江が一蹴りした。
恵林とアインの興奮は、手馴れた里奈が宥めている。いつも通りの賑わいを取り戻した皆の中で、和葉は涙と鼻水をごしごしと拭って息を吐いた。
「いいないいな、あたしも彼氏が欲しいなーっ!
____あ、そうだ!」
パチンと手を叩く和葉。
「色々あったけど、最後に肝試ししたーい!」
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ジリリリと生い茂る草木の中で虫が鳴く。巨大な生態系がそこに構築されているのだろうと察せるほどの雑木林の間に、その辺鄙な一本道はあった。
「嫌だよ俺、ゴーストが出たらチビっちゃうよ!」
「あら鈴原くん、汚いこと言わないでちょうだい!」
虫の声も人の声も騒がしい中、「あたしとしーくんがトップバッターか…」と、和葉は身震いする。夏祭り前に練習までしたのにもかかわらず、暗がりのその道は以前と全く違って見えて、ひどく不気味だ。
「行ってらっしゃーい……」と残された者たちが小声で二人の背中を見送る。和葉はびくびくしながら中村の背中にくっついて進んだ。
「今日楽しかったね〜」
他愛も無い会話を振ってくる中村だが、和葉はそれどころではなかった。言い出しっぺではあるが、ホラーにめっぽう弱いのだ。
「あ、あたし目瞑って歩くからゴールしたら言って!」
そう言ってぎゅっと中村の腕を掴む和葉。「目瞑ったら危ないよ?」とケタケタ笑う声がするが、目が開いていると本来見えてはいけないものまで見てしまいそうで恐ろしいのだ。
「あ!」と中村が叫んだ。
「きゃー!な、なにっ!!」と倍の大きさで和葉が叫んだ。
「あはは、何も無いよ〜」
「んもうっ!しーくんのばかっ!」
ん?と和葉は思う。この展開、最近読んだ少女漫画のあの回で読んだ気がする。つまり今この状況は少女漫画のようで、ひょっとして和葉はヒロインだったり_____
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そちゃ(プロフ) - おい氏橋!ついにやりやがったな...と、友達目線で読んでました。今回のお話はキャラのらしさ全開で読んでて楽しかったです。アインくん不穏でしたが彼ならきっと乗り越えられると願ってます....続き楽しみにしてます。 (2023年3月22日 21時) (レス) @page46 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2023年3月15日 23時