永晩麗尾、一夜に揺らめく菊の花。 ページ38
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祭りのアナウンスがここまで聞こえてくる。何を言っているかまでは分からないが、何かを知らせている。
まだ上がっている呼吸を必死に落ち着かせようとして、氏橋はその場にしゃがみこむ。
「…宮野、すまなかった。」
「何がよ」と素っ気なく返ってくる返事。
「急にあんなことして、木下の気持ちも台無しに…」
「ええそうね、あなたは自分勝手よね。」
「その……悪かった」
謝罪の言葉しか出てこない。あの視線は自分の思い違いだったのだろうか？けれども確かに、氏橋は美江にこれでいいのかと問われたような気がしたのだ。
「…俺は間違えたのか？」と氏橋は聞く。
「＿＿＿＿＿間違えたですって？」
キン、と耳鳴りがして背筋が凍る。氏橋が失言したと思った頃には時すでに遅し。美江は突っ立って俯いたまま、震える息を吐いた。
「私に嫌な思いさせておいて、私を追いかけておいて、私をこんなところまで走らせておいて、アンタ全部間違えたって言いたいの！？こんな惨めな気持ち初めてだわ！髪も、浴衣も、ぐちゃぐちゃじゃない！！」
ワァっと泣き出す美江。ぼろぼろと溢れる涙も拭わずに、両手は浴衣の裾を皺が着くほど握りしめていた。
カランと音がする。簪が髪から滑り落ちたのだ。美江の長い髪はするすると解けて背中を覆うように垂れると、嗚咽して肩が跳ねる度に揺れた。
「宮野、違う、宮野…」と氏橋は八の字に眉を下げて立ち上がる。
「来ないで！もう綺麗じゃなくなったから帰りたい！アンタのせいで私こんなになって、アンタなんか大っ嫌い！」
……世界が本当に、氏橋一人を残して消え去ったような感覚に陥った。
その時、パァンっと空で何かが弾けた。美江の泣き顔が赤色に、黄色に光る。氏橋はハッとして頭上を見上げた。花火が打ち上がったのだ。
木下が仕切りに腕時計を気にしていた理由が分かった。この花火を待って告白をしようとしたのだと思った。空に花が咲いている中で愛なんか囁かれたら、情に脆い美江は簡単に頷いてしまうのだろうか。
氏橋は美江を見た。
美江はやはり、花火を見ていた。
「おい、空なんか見るな！」
氏橋は急に不安になって美江の両肩を掴む。美江は泣き腫らした瞳で氏橋を睨んだ。
「それでいい、俺を見ててくれ。いいか、俺は花火なんて見ない。何故なら花火よりもお前の方が綺麗だからだ。」
「はあ？意味不明！」とぶった斬る美江。多少傷つきながら、氏橋は咳払いして仕切り直す。
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そちゃ(プロフ) - おい氏橋！ついにやりやがったな...と、友達目線で読んでました。今回のお話はキャラのらしさ全開で読んでて楽しかったです。アインくん不穏でしたが彼ならきっと乗り越えられると願ってます....続き楽しみにしてます。 (2023年3月22日 21時) (
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作者名：えりんぎ※息を吸う | 作成日時：2023年3月15日 23時
