No.303 ページ36
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「宮野…宮野…」と地縛霊のように木の幹にしがみつく氏橋。
木下と美江は公園の外れにある円形の広場で話し込んでいた。周りには同級生がちらほらと集まって二人の話の行方を見守っているようだった。
「ねえ」と中村が、近くにいた気の弱い他クラスの男子に声をかける。男子生徒は「ひっ」と中村に怯えて身を竦ませる。
「これから何が始まるの?」
中村は広場の中心で話す二人を顎で指しながら聞く。「こ、告白だよ。」と男子生徒がどもりながら教えてくれた。
「今夜ここで告白するんだって木下くんが言ってたんだ、みんな木下くんの告白が上手くいってほしくて見に来てるんだよ…」
「見せもんじゃないっつ〜の」と苛立たしげに中央の二人を眺める中村。人気者の木下らしく、周りを派手に巻き込んだ告白で大成功させ、美談で終わらせようという魂胆なのだろう。
しかし一向に告白するような気配はない。どうやら木下は美江の様子を見ながらいつ切り出そうか迷っているようだった。なんていったって美江は今、相当機嫌が悪い。自分に好意を寄せていた男が別の女に目移りしていたのを目撃したのだからしばらくは鬼のまま人に戻れずいるだろう。
「木下くん、顔まっかっかだねー…」と和葉がカメラを向ける。「なに照れてんだよムカつく!」と中村が木を蹴って当たっているが、その木に張り付いていた氏橋は涙目になってぷるぷる震えていた。
それからしばらく経った。居心地悪そうに立ち尽くす美江の前で、木下は仕切りに腕時計を確認したり足踏みしたりして気を紛らわそうとしている。その初々しさで全身が痒くなりそうだ。
午後八時二十分頃のことだった。
祭りの会場に「ただいまより、花火を打ち上げます」とアナウンスが入ったのだ。すると、周りに集まっていた生徒たちがざわざわと騒ぎ出した。どうしたのかと思っていた矢先に「宮野…いや、美江!」と、突然木下が声を張り上げた。
氏橋の顔が絶望の色に染まる。きっとこの後、木下は美江に秘めていた気持ちを伝えるのだろう。
「その、俺…」と腕をぽりぽりかき、頭をぽりぽりかき、木下は視線を行ったり来たりさせて口を開く。
「小学校の頃から、美江のことが、その……」
見守り隊があちらこちらで頑張れとエールを送っている。
「やば、告白しちゃいそう!」と沸き出す和葉。中村はイライラして、ぽけっとしている氏橋の背中を思いっきりぶっ叩いた。
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そちゃ(プロフ) - おい氏橋!ついにやりやがったな...と、友達目線で読んでました。今回のお話はキャラのらしさ全開で読んでて楽しかったです。アインくん不穏でしたが彼ならきっと乗り越えられると願ってます....続き楽しみにしてます。 (2023年3月22日 21時) (レス) @page46 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2023年3月15日 23時