No.292 ページ24
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「いや俺は、別に…」と押し黙る氏橋。弟の前で自分の色恋事情を話す訳にはいかない。
「そ、そんなことより!お前たちは何をしてるんだッ!」
「なんで怒り気味…」と引く和葉。
「あたしの両親、ボランティアで夏祭りの準備手伝ってるんだー。それであたしも来たんだけど、暇になっちゃってガキンチョ共と遊んでたの!」
「僕はミキレンくんに誘われてきたんだよ!」
「そ、そうなのか…」と氏橋はぽかんとした。和葉の家の事情はよく知らないが、随分地域に貢献している素晴らしい家族のようだ。
そんな和葉の弟とケイタロウが同い年____小学二年生であったことには驚きだが、甘えん坊の弟にも友人がいたことに安堵する。
「おーい!カーズーハ!鬼やれよ!」
「あーもううるさいなあ!怒ったぞ!あんたのこと捕まえてやるーっ!」
「ギャー!」と言って駆けていく和葉の弟。和葉はちょっと追いかける素振りを見せて直ぐに戻ってくると、「はいタッチ!」とケイタロウに触れた。
「あー、僕、足おそいのに…でも、がんばるね!」
「ミキレンくーん!」とちょこちょこと走るケイタロウ。「やっぱり天使!可愛すぎる!」と和葉はきゅんきゅん胸を鳴らして感嘆のため息を零した。どう考えたって氏橋の弟とは思えない素直で真っ直ぐな少年だ。
「情報屋、頼みがあるんだが…」
頃合いを見て、氏橋は咳払いして和葉に耳打ちする。
こしょこしょこしょこしょ…
「オッケー!美江ちゃんをデートに誘う手伝いをすればいいんだね!」
「ああもう声がデカいんだよ!!」
「あっ、ごめんね!」と和葉が口を閉じる。閉じながら、氏橋も大概だと思った。
「具体的にどうしようか?こんな時、師匠がいればなぁ」
公園のベンチに腰掛けて、和葉は腕を組んで空を見上げた。氏橋もやや離れた位置に座る。
「私が思うに、美江ちゃんは普通にデートを楽しみにしてると思うんだよねっ。桐ヶ谷くんのことを持ち出して怒ってたけど、みんなの前でデートに誘われたのが恥ずかしかったんじゃないかな?」
「そうか?そうだといいが…」
「ていうかさ…」
わざわざあけた距離をぐいっと詰めて、和葉は氏橋に身を乗り出す。「な、なんだ急に」と思春期真っ只中の氏橋は心臓バックバクで縮こまる。
「取り引きをしない?」
ちびっ子が芝生の上を駆け回る中、和葉が宝箱の在処でも共有するかのような声色で聞いた。
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そちゃ(プロフ) - おい氏橋!ついにやりやがったな...と、友達目線で読んでました。今回のお話はキャラのらしさ全開で読んでて楽しかったです。アインくん不穏でしたが彼ならきっと乗り越えられると願ってます....続き楽しみにしてます。 (2023年3月22日 21時) (レス) @page46 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2023年3月15日 23時