No.290 ページ21
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七人というお見舞いにはそぐわない子供たちの集団に、受付カウンターのスタッフも苦笑いを零している。
「桐ヶ谷葵さんのお見舞いに来ました」と中村が言う。スタッフの人は全員の名前をチェックするためにバインダーを用意した。
恵林は「中村紫苑です」と、そして中村は「中村修也」ですと嘘八百を並べている。氏橋はハラハラしながら自分の名前を述べ、受付が終了するのをまだかまだかと待ちわびた。
「はい、桐ヶ谷さんの病室は個室の606号室です。病室に入る際は二人ずつでお願いします。」
本当に上手くいったようだった。一安心した氏橋はエレベーターで六階に向かう。途中、中村が「あれ?」と独り言を呟いていたが、どうしたのかと聞いても何も教えてくれなかった。
「うわー、葵…寝てる」
恵林は扉の小さな窓にべったりとくっついて中を覗く。「恵林、手紙は持ってきた?」と後ろで里奈が聞いた。
「バッチリ!ありがとう、里奈。」
「俺も俺も!」とアインがポケットからクシャッと萎れた便箋を取り出す。「やだ!鈴原くんってほんとガサツ!」と美江が顔を顰めた。
二人が取っ組み合いを始めた間に、恵林は当たりをキョロキョロ見回して、「お母さんいないよね?」と桐ヶ谷の母親の姿を探した。
「なに?ここで働いているのか?」
「そうなんだよ、見つかったら私、つまみ出されちゃう」
身震いしながら桐ヶ谷の病室の戸を開く恵林。「はあ!?見つかったらつまみ出されるんだろ、入らない方がいいんじゃないのか!?」と小声で氏橋が引き止めた。
「あたしもはーいろっと!」
恵林の後を和葉がついていく。氏橋はヒヤリと背筋を凍らせて、忙しなく周囲に目を配っていた。
「しかし、桐ヶ谷のやつ急にどうしたっていうんだ。学校だってほとんど休まないのに……」
「軟弱体質に憧れちゃったのかな〜」と馬鹿にする中村。考え込んでしまった氏橋を元気付けようと、「ま、眠ることにも飽きてすぐに起きるでしょ」と笑い飛ばした。
その後、他のメンバーも桐ヶ谷の病室に出向き、各々彼の眠りこける顔を見つめて戻ってきた。
「私はここからでいいや…」と小さく笑った里奈に頷いて、恵林は先頭を歩いて病院を出た。
青空の遥か遠くに、入道雲がぷっかりと浮かんでいる。
「よかった、私一人じゃ怖くて来れなかったから」と、歩きながら恵林は背で語った。
「手紙も渡せた。みんなありがとう!」
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そちゃ(プロフ) - おい氏橋!ついにやりやがったな...と、友達目線で読んでました。今回のお話はキャラのらしさ全開で読んでて楽しかったです。アインくん不穏でしたが彼ならきっと乗り越えられると願ってます....続き楽しみにしてます。 (2023年3月22日 21時) (レス) @page46 id: 970cecf5ba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ※息を吸う | 作成日時:2023年3月15日 23時